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柏原淑子
私は広いリビングルームのソファに寛ぎながら、テレビ画面に映し出されている、パリコレやミラノコレクションの名だたるモデルたちのランウェイの姿に魅入られていた。
しなやかな長い手足、意志の強そうな揺るがない瞳。そして、ぶれることのないウォーキング。すべてが完璧だった。
誰かが言っていたな。ランウェイはモデルの戦場だと。戦場といっても銃や弾丸を持っているわけではなく、美貌やスタイル、オーラといった武器を携える。そのような武器は時に他のモデルの精神を殺す。戦場では血が流されるが、ランウェイでは心に弾痕の穴が開く。
まだ、私はファッションモデルというには未熟だし、その資格を有してはいない。
映像は世界的なモデルがランウェイを闊歩するシーンを映している。私もいつか、その場に居たい。いや、居なければいけないと心に誓った。
テレビを消し、私は預金通帳を見る。預金は、少ない仕事と生活費の収支のバランスが悪いため、目減りしていくのが分かる。だが、最近になって、私にはスポンサーが現れた。
中堅芸能事務所の社長で、私に映画に出てみないかと声をかけた。
私は演技には自信がなかったが、誰でも演技は最初からできないと言って、私をその気にさせようとした。
両親がよく言っていたな。芸能界は怖い所だと。私みたいな初心な人間が足を踏み入れたら最期。底なし沼のように沈められると。でも、所詮は人間の集まり。どこの世界だってそれなりに厳しい。自分がしっかりしていれば問題はないのだ。
だが、私は子どもの頃からおっちょこちょいだ。だいたい、人前に出ることが恥ずかしかった。友だちも少なかった。唯一、心を許せる友だちは、もうこの世には居ない。
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