12. April 2023【つぶやきと記録・1話完結】

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12. April 2023【つぶやきと記録・1話完結】

抗がん剤3クール目終了 熱が下がらんなあ 薬が癌をぶっ潰している熱なのか 癌が薬に負けじと暴れている熱なのか 今回はほんまに悩んで不安になってしまう しかも毎回最後の薬で時間かかるよな 目標4時間!!…無理かな ほんまに上手くいかん事ばっかりやわ 白血球が足りんかったり 追加の薬いれたのに腰の激痛増えただけで 他はあまり変わらんかったり 挙句… 転移が見つかったり 4月1日やったよな? こんなにしんどいのに しんどいけどこれに耐えたら良うなるんやて 2人で気張って気張ってやってきたのに 良うならん自分に疲れて…おまえ泣かせたのんは でもなあ かんにんやで…あそこで泣くと思わんやって ごめんな いつもほんまに ありがとう ──────────────────── 1.April 2023 「別れてくれん」 窓の外を眺めたままそう呟いた俺にエースが笑う。 「何を突然、アホかw」 ベッドサイドに腰掛けたエースの目を見て 俺は改めてこう言った。 「まじな話やわ。やっぱ無理、別れてくれん」 ふはっと小さく笑い首を傾げたエースに更に続ける。 「もう治らんやん。やでええから。付添とかさ、そんなんももうええから…別れてくれん」 エースの笑顔が消えていくのを感じながら、俺はここ数日の思いを全て吐き出す事にした。 癌になってからプロポーズされて、正直何故今なんだと思った事 薬も効いていないなら、苦しいだけだからこの治療をやめてしまいたいと思っている事 歌も歌えない、メイクも出来ない、かっこつけた写真も動画も撮影出来ない、ピアノも弾けない、加えて癌ですなんて、結婚してもデメリットしかないだろうと思っている事 吐いて、痩せて、抜けた髪見て泣いてる婚約者なんて、あなたを幸せにできる訳がないと思っている事 エースには幸せになって欲しい事 だから、別れて健康な人と一緒になれ… そこまで話した時 ガシャーン!と言う大きな音と共にエースが立ち上がった 「てめえ、ふざけんなよ」 見下ろす目が怒りと悲しみに溢れている 「ふざけんな」 「ふざけてねんだわ」 そう言って睨み上げた俺に、目の前にあった体温計を投げつけたエースが一気に捲し立てる。 「ふざけてねえなら尚更ナメんな!!!おまえ何様なんだよ、馬鹿にすんのも大概にしろや!!!!」 なぜかその言葉にカチンときた俺も 立ち上がりエースの胸ぐらを掴む。 「馬鹿にしてんのはてめえだろうが!!!」 睨み上げたエースに手を振り払われただけでベッドに倒れた時、苛つきと共にこの程度でバランスを崩す自分に正直驚いた。 今までに感じた事の無い、どうしようもない悲しみと苛立ちに潰されそうになった俺は、溢れてきた涙と共に泣き叫んだ。 「この程度で倒れるんやぞ!お前に何が出来んねん!!惨めにさせんなやもう消えろ!!!」 「っ…うあああ!!!!!!」 ガンッと床を蹴り壁を殴ったエースも そのまま壁に頭を付け、肩を震わせていた。 どんなに負けず嫌いでも 得体の知れない相手には勝てない そう思った時 壁に頭をつけたままのエースが呟いた。 「ざけんなよ、俺は別にそんなんじゃねえ」 エースに背を向けたまま、少しだけ顔を上げる 「ふざけんなよ!!俺は!別にお前が癌だろうが関係ねんだよ!!」 もう1度壁をダンッと殴ったエースがこちらを向いた気配がした 「俺は!歌が上手いとか、ピアノが弾けるとか、お前のステータスに惚れてプロポーズした訳じゃねんだよ!!!お前だからプロポーズしたんだよ!!」 顔を上げた俺に、エースは涙声のまま続ける 「かわいい顔して意志が強い!どんな逆境にも負けない!!繊細で、誰にでも気配りができて、人見知りなのに俺にはいつも笑って甘えてくる!!魚を見たら全部サメって言う、何年たってもロリポップで舌切る!!」 涙声が泣き声に変わる。 振り返った俺に…ボロボロ泣きながら 「お前といると幸せなんだよ!!癒やされんだよ!!どんなに辛い事があってもお前といると前にすすめるから!!!だからプロポーズしたんだよっ!!!それをっ……!!!ふざけんな!!癌がそんなに偉いのかよ!!」 いつもチャラチャラしてるのにどこか冷静で 喧嘩をしたら負け知らずな強気のエースが あの日の俺より… ガキみたいにしゃくりあげながら泣いていた 思わず、その顔に触れた俺の手を握り エースはこう続けた 「お前が、俺より弱音を吐ける奴を見つけたなら別れるよ。でも、そうじゃなくて、迷惑になるとか何も出来ないとか、そんな理由なら頼むから別れようなんて言うなよ…俺はお前といたいからプロポーズしたんだよ、俺らなら、一緒に闘えるって思ったし、お前がいないと無理だから俺は」 ああ、そうか… 「一緒にいれるだけでいいから、お前がそこにいたら俺は幸せだから」 一緒なら大丈夫って、そういう事だったのか… 「頼むから負けんなよ…そんなん気にさせない位もっともっと愛送るから、一緒にいてよ、ごめんな、お前辛いのに悩ませてごめんな、絶対大丈夫って思わせるから」 そう言って抱き締めてくれる大好きな香りに 苛立ちや悔しさや悲しみが全て溶けていく 「…ごめん」 それしか言えない俺を エースはぎゅっと抱き締め直してくれた ──────────────────── それから涙を拭いた俺達は 久し振りに外出をした 感染すると治療が休止になるので慎重になりすぎていたけれど、以前と変わらない何かをする事が 次へのモチベーションに繋がると実感した程 俺達はずっと笑顔だった 朝、目が覚める事も おはようって、キス出来る事も 大学や仕事へ、出掛けて行ける事も 太陽の暖かさを、肌で感じられる事も 明日の約束が、交わせることも 全て奇跡の連続なんだよな 帰り道に聞いたエースの言葉が 今日も俺に、希望をくれる 俺達が婚約した日に決めたモットー "SEIZE THE DAY" = 今を生きろ、今を楽しめ!! そうだ。 さあ、今日も思い切り生きよう! 夕飯何作ろうかな♪ …完
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