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六の巻
「お前を喰いたいと疼きやがるんだ……」
「え?」
桜典は地面に手をつき、よろめきながら起き上がった。着物の襟から両腕をばさっと勢いよく出すと、上半身裸の諸肌脱ぎになり、筋骨隆々とした胸元を露わにした。
「疼くんだよ、この乱れ桜の刺青がなあ!」
桜典がぐいと背中を向けると、そこには火花のように乱れ散る桜吹雪の中に立つ仁王の紋様が刻まれていた。
「はっ、呆れたものね。威勢だけ良くても何の意味もない、興醒めだわ。そろそろ止めを刺してあげる……」
カーミラは卑しい上目遣いをすると、牙を剥き出しほくそ笑んだ。
「ならば、これなら……どうだ?」
桜典は着物の袖からペインテンナイフを取り出すと、構図を測るようにカーミラに向けた。
「あーはっはっ、何かと思えば、絵描きの小道具。そんなものがどうしたって言うのお?」
「魔桜、散火ノ契ノ理ニ服シ力ヲ賜エ。玲空忍宝千幻の術」
桜典が印を結び呪文を唱えるとその体は無数に分かれ、瞬く間にカーミラを取り囲んだ。
「そんな目眩しが私に効くとでも——」
桜典を嘲る間もなく、八方から襲いかかったナイフはカーミラの六骸を切り刻んだ。
「ちい!」
耐えかねたカーミラは、腕からめりめりと黒い羽を生やすと飛び上がり、玲空桜の太枝に飛び乗った。
「はん、こんなかすり傷、すぐに癒え……え? 傷が癒えない!」
刻まれた傷は消えることなく、ただ血がぼたりぼたりと滴り落ちていた。
「このペインテンナイフは神剣グラムの破片を鍛え直したもの。よもや神が造り出した剣に抗う術はなかろう?」
「魔竜さえも倒したとされる聖剣……。貴様がなぜそんなものを」
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