六の巻

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「……俺は抜け忍でな、生まれ育った里の祖先は元々大陸から渡ってきた魔導士だ。その闇の魔力でこの島国を我が物にしようと企てたが……(いくさ)に敗れ、忍びの道に入った。俺の巨漢も異国の血の名残(なごり)」 「くっ、()が悪くなってきたわね、ここはひとまず退くとしましょう」 「もう遅い……」 「なにい? う——、体が動かない」  カーミラは闇夜に飛び立とうとしたが、金縛りにあったかのように身動きができなくなっていた。  いつの間にか玲空桜の枝がカーミラの体に絡みつき、離すまいと手足を縛り付けていた。 「その呪木(じゅもく)に見染められたのが運の尽き。誰もその呪縛から逃れることはできない。年貢の納め時だ」  桜典はすらりと四枚のペインテンナイフを指先に揃えると、最後の一言を呟いた。 「成敗——」  ナイフが投じられると、それは鉄杭となってカーミラの腕と足を撃ち抜き、(はりつけ)にされた吸血鬼から垂れる朱色の染料が、玲空桜の画布を赤く染めた。  奇異忌諱(キイキイ)という蝙蝠(こうもり)(わめ)き声が、どこからともなく聞こえてきた。
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