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七の巻
「てぇへんだ! てぇへんだ! またまた大事件だ。玲空桜の枝に吊された化け物の骸が見つかったぞ。生き血を吸う六尺はあろう蝙蝠女だ。その恐ろしい風体はこの瓦版の錦絵に描いてある。さあ、買った、買ったぁ!」
瓦版の売子が懸命に叫ぶも、民衆は振り向かず冷ややかな眼差しを送っていた。
「よう、瓦版の旦那、売れ行きはどうだい?」
通りがかりの桜典が売子に声をかけると、売子は渋い顔で桜典を睨んだ。
「けっ、旦那のでたらめ話を信じて瓦版にしてみたが、とんと売れやしねえ。今時河童やら妖怪なんざ誰も信じねえ、小童にも馬鹿にされる。瓦版てのはなあ、色恋人情沙汰じゃないと売れねえんだ。どうしてくれるんでい、こんちくしょう」
売子は腕をまくり上げ、桜典に食ってかかる。
我関せずと耳をほじっていると、桜典を呼ぶ声が聞こえた。
「桜典の旦那!」
声をかけられ、後ろを振り向くと、清楚な着物を身をつけた乃流が小走りする姿が見えた。
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