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「ああ、瓦版の旦那かい、売れ行きはどうだい?」
「お前さんの錦絵のおかげで、飛ぶように売れてるぜ。この異人さんも、えらく気に入ったみてえだぞ」
桜典がちらりと見やると、女は口角を上げて光る八重歯を見せた。
「とても素敵な絵図ね。凄惨ながらも鮮烈な色彩と巧みな構図で、刹那の美が表現されている。私の名はミラーカ、今度私の絵も描いてもらいたいものだわ。賃銀は弾むわよ」
「俺は自分の興味のあるものしか描かないんでね。気が向いたら描いてやってもいいが、あいにく先客がいる」
「あら……そう、残念ね。あなたには私と同じ感性を感じる。その気になったら、声をかけてちょうだい」
そう語るとミラーカは人の合間をするりと抜け、颯爽とその場を去っていった。
「桜典、どうだい? 小判ももらえたことだし、この後一杯ひっかけに行かねえか?」
売子はくいっと酒を煽る仕草をしたが、桜典は気に留めず、ただミラーカの後ろ姿を凝視していた。
「……疼くな」
「おやあ、どこが疼くんだい? ひょっとして桜典、あの異人さんに惚れちまったか」
「あ? ああ、いやそういうことではない。悪いな、今日はこれから野暮用がある」
「また馴染みの遊郭か? 本当に女好きだな、どこにそんな金があるんだ」
「まあこれが趣味なもんでな、はは」
桜典は売子に背を向けると、はだけた胸元をぼりぼりと掻きながら、軽く手を振った。
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