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二の巻
「乃流さんはいるかい?」
桜典が遊郭の女将に声をかけると、女将は漆塗りのキセルで煙草の煙を燻らせていた。
「ああ、二階にいるよ。今日も随分とお荷物を担いでいるね」
「俺の商売道具だからな、これがないと始まらねえ」
桜典は女将に数枚の小判を渡すと、大きな風呂敷を背負いながら二階に上がる階段へ向かった。
階段をのしのしと歩いていくと、襖の開いたこぢんまりとした座敷部屋が見えてきた。
そこには部屋の窓から、ぼーっと町並みを眺める遊女が一人、畳に座っていた。
「あら、桜典の旦那……こんにちは、お早いお着きでご苦労様でありんす」
遊女は桜典に気づくと姿勢を正し、掌を畳につけて座礼をした。
「乃流さん、さっそくで悪いが支度をしてくれるか?」
「はい、わかりんした」
乃流は艶やかな着物の襟元をするりと落とすと、柔らかな桃色の肌を露わにした。
桜典は風呂敷を広げ、中から画布を取り出すと画架に立て掛け、調色板に絵の具を載せた。
そして平らな刃物で絵の具をすくうと、画布を舐めるように塗り付け始めた。
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