五の巻

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 桜典は突進するとカーミラの顔めがけて(やいば)を突き出す。カーミラの顔をかすめると、当たらなくとも刀が放つ青い妖光が頬を切り裂き、血がほとばしる。  すかさず胴を目掛けて横一閃に振り抜くと、カーミラは上半身をぐるりと反り返してそれを避け、刃を両手で鷲掴みにした。  桜典はそれを振り(ほど)こうとするがびくともせず、ギリギリと己の体を揺らした。  カーミラが受けた傷はみるみるうちに回復して、跡形もなく癒えてしまった。 「ふん、これが噂に聞く妖刀……。不死人の私にとっては、いかなる剣も無意味なもの」  カーミラはそう告げると刀を手刀で叩き折り、桜典の脇腹を蹴り上げるとみしりと骨の砕ける鈍い音がした。  吹き飛ばされた桜典は、ごろごろと地面に転がり大の字になって天を仰いだ。 「ごめんあそばせ。私は男の血は吸わない主義だから、あなたの首元に優しく牙を立ててあげる気にならないの」  桜典は息もたえだえに、言葉を絞り出した。 「はあ、はあ……。なぜ……乃流さんを……狙った」 「あの娘は遊女でありながら、清廉な魂を持つ逸品だからよ。果実のような甘酸っぱい血の香り、私は美食家なの」 「乃流さんはお前に期待を寄せていた、異国の旅ができるかもしれないと。その夢を踏み(にじ)りやがった。それがなにより許せねえ」 「ふふ、その絶望がスパイスになって、味に深みが出るんじゃない」
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