乱れ桜の散火が疼く

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 花が芽吹き、うぐいすは(さえず)る、春の気配が訪れた小高い山の頂にある、古惚けた寺院の境内(けいだい)。   二人の中学生がクロッキー帳を片手に桜をスケッチする姿があった。 「わあ、綺麗だね、満開の桜。今日は天気もいいし、いつも美術部の暗い部室に籠りきりの君には、丁度いい機会なんじゃない?」 「うーん、でも僕、桜ってあんまり好きじゃないんだよね」  少女が桜をテーマに新作を描こうと誘ったが、少年はあまり乗り気ではなかった。 「え、なんで?」 「……聞きたい?」 「気になる、気になる」 「実は僕の家に古いお蔵があるんだけどさ、子供の頃かくれんぼしていたら、そこで絵巻物を見つけたんだ」 「巻物って、あのくるくる巻かれた忍者が持ってるみたいなやつ?」 「まあ、そんな感じ。紐を解いて開けてみたら、漫画みたいで面白そうだったんだけど、文字が何て書いてあるのかわからなかったから、後でお爺ちゃんに読んでもらったんだ。でもさ、その話を聞いたらなんか桜って怖いなと思って避けるようになったんだ」 「へえー、都市伝説みたいなものかな? どんな話なのか、教えてよ」 「七巻もあるから長いよ?」 「平気、平気、今日はスケッチを言い訳に気晴らしに来ただけだから」  うーんと少女は背伸びをした。  二人は鉛筆を置くと、休憩を取ることにした。  賽銭箱の前の石段に腰を下ろすと、少年はペットボトルの水をぐいぐいと飲み干し、ふうーと息をつくと、思い出すように語り始めた。 「昔、昔、都に大きな桜の木が……」
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