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 翌日、あまり気が進まなかったが、母に誘われて朱桜神社を訪れた。鳥居とその横に立つ大きな桜、通称「一ノ木」は、夢に出てきた通りの姿をしていた。私は嫌な気持ちになったが、濃い色の花を沢山つけた木の枝を揺らす風が爽やかだったので、少しほっとしてそのまま鳥居をくぐる。  出迎えてくれた現宮司、櫻庭陸弥(りくや)さんは母の同級生である。時代が時代なら、母はこの人と一緒になっていたかもしれないのだった。私たちは本殿に手を合わせてから、敷地の奥に建つ自宅に招かれた。 「希美子(きみこ)ちゃん、久しぶり……恭子さんは先代のお葬式以来ですね」  母のことを親し気に名で呼んだ櫻庭さんだが、私には丁寧に接してくれた。客間でお茶と練り切りを出されると、気安さからか、母は私が昨夜神社の夢にうなされた話を持ち出した。私は詳細を櫻庭さんに話さざるを得なくなり、彼の表情が難しくなるのを見て、胸の中がざわざわし始めた。 「たづちゃんって、先々代の多津子さんですよね」  そう、それは曾祖母の名だった。私は喉の奥が絞まったのを感じた。母は思わずといったように、背筋を伸ばす。 「昨日恵津子姉さんが、祖母の結婚式の写真を見せてくれたの、すごく恭子に似ていて」 「そうなのか、恭子さんはほんとに一宮の顔立ちだもんね……」  櫻庭さんの溜め息は、重かった。私は思わず母と顔を見合わせる。 「その女性は、多津子さんの夫の哲弥の、双子の妹……かもしれない」  まさかあの美しい人が実在したとは思わず、私は驚愕に硬直してしまった。こんな話を始める櫻庭さんも普通でないと思ったが、ここはそういう土地なのだと戦慄さえ覚える。 「これは櫻庭家の恥なんだけれど……希美子ちゃんと恭子さんは一宮の人だ、それに恵津子さんも知ってる話だから」
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