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フロントへの電話一本で、綾瀬が頼んでいた料理が部屋に運ばれてきた。 クリスマスを意識したのか、チキン料理がメインだった。 ワインを飲みながら、ゆったりと食事を済ませた後は、窓際に腰かけて夜景を眺めた。 「架純」 名前を呼ばれ、部屋の中に視線を戻す。 手には指輪ケースが握られていて、それを見た瞬間背筋が伸びた。 「はい」 「改めて、俺と家族になってくれてありがとう。遅くなったけど、この指輪を受け取ってくれますか」 プロポーズを承諾した後で、婚約指輪を指にはめてもらうのは不思議な感覚がした。 私は、返事の代わりに左手を綾瀬の前に差し出す。 その手を綾瀬が取って、薬指に指輪がはめられる。 大きめのダイヤの両端に、ピンクの小粒のダイヤが添えられた可愛らしい指輪だった。 「年が明けて架純の仕事が落ち着いたら、次は結婚指輪を見に行こう」 「式はしないんだし、もっとゆっくりでもいいよ」 「ダメだよ。俺だって、早く薬指に指輪したいんだから」 綾瀬はそう言って、まだ何もついていない左手の薬指を見せつけて来る。 それもそうだね、と私は笑いながら答えた。 「指輪もだけど、フォトウェディングの会場も探さないとね」 「架純のウェディングドレス姿、見るの楽しみ」 綾瀬が私の隣に腰かけ、窓の外の夜景を食い入るように見つめる。 暫く彼の横顔を見つめた後、私も窓の外を見た。 ホテルの敷地内にある庭園と、気を隔てた奥に広がる都会の夜景。 異質なのにそれらは溶け合ってひとつの景色になっている。 「綺麗だね」 どちらからともなく呟いて。それから顔を見合わせ、笑い合う。 そして、どちらから誘ったのか、私たちはキングサイズのベッドに腰を下ろした。 綾瀬の指が、私の左手の掌を這い、指に絡まる。 間接照明の光を受けて、指輪のダイヤがきらりと光った。 いつからだったか、私たちは違う道を歩いていると思っていた。 でも、私たちは同じ方を向いて、同じ道を歩み出した。 そこへ至るまでの道は曲がりくねって、違う道を歩いているようにも思えたけど、再び重なった2人分の道は、きっと前よりも広くてまっすぐな一本道。 〈Fin〉
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