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【Side架純】
6畳の狭いリビングに不釣り合いの45インチの大きなテレビ。
そこに映し出される、高校生のカップル。
『私、信じてた。雄吾は戻ってきてくれるって』
『待たせてごめん。不甲斐なくてごめん。こんな俺でも、一緒にいてくれるか?』
『もちろんだよ』
すれ違いにすれ違いを重ね、最後の最後に結ばれる。
少女漫画系恋愛ものの王道展開だと思う。
「よかった。よかった…!」
そう言って、私の隣で目頭を押さえるのは、付き合って3年目になる恋人の綾瀬。
狭い部屋に、似つかない大きなテレビを買った張本人。
彼曰く、映画のような迫力のある映像を家でも見たいのだそうだ。
だから週末は毎回、レンタルしてきたDVDを自慢のテレビで再生しながら、ソファでアイスやお菓子を食べるのが恒例だった。
「架純はこういう映画で泣かないよね」
「泣くときは泣くよ」
とは言ったものの、ここで泣けと言わんばかりの、感動シーンを盛り上げるBGMと演出を用意されると、逆に涙が引っ込んでしまう。
映画で泣かないという彼の指摘は、あながち間違ってはいないのだ。
「俺もさ、こういう青春送ってみたかったな」
綾瀬はそう言って、映画を見ながら食べたカップアイスのゴミを捨てに立ち上がる。
「楽しそうだよね」
結末がハッピーエンドだとわかっていたら、の話だけど。
でも、作中の主人公とヒロインがすれ違っている時間は、実際自分の身に起きたら楽しくないと思う。
だって相手の気持ちがわからなくて、片想いの感情ばかり大きくなって、きっと不安に押しつぶされそうになる。
「だから、ね?架純と出会ったことは俺にとって、憧れてた運命そのものなんだ」
綾瀬の手が伸びて来て、私の髪を優しく撫でる。
くすぐったさに目を瞑ると、唇に温もりが触れた。
綾瀬との出会いは3年前――大学生活最後の年だった。
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