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【Side架純】
テーブルに2つ並んだ、ピンクと青のマグカップ。
2人で絵付けしたあのマグカップだ。
「いい感じに仕上がったよね」
「自分たちで作ったと思えないな」
祝日に急遽休みになった綾瀬が、郵送されてきたマグカップを受け取っておいてくれた。
週末の今日、初めてマグカップにココアを入れて飲んでいる。
「年を取ったらこのマグカップで緑茶飲みたいね」
「夫婦マグカップ的な?」
夫婦茶碗とは言うけど、夫婦マグカップは違和感があって、2人で声を立てて笑った。
ひとしきり笑ったところで、綾瀬がすくっと立ち上がって「トイレ行ってくる」とリビングを出て行く。
そういえば、今日は綾瀬、何のDVD借りてきたんだろう。
私はテーブルに置かれたレンタルDVDのパッケージを見ようと、手を伸ばす。
ティロン
そのタイミングで、綾瀬のスマホが鳴る。
何も考えず、本当に何気なく、悪気もなくスマホの画面に目を向けた。
≪TAKA≫
『彼女にバレるなよ?』
RAINの通知だった。
表示されているメッセージを読んで、心臓がバクバクと早鐘を打つ。
バレるなよ、って何?
どういう意味?
彼女に――ってことは、私だよね?
綾瀬が私に、何かを隠してるってこと?
真っ先に頭に浮かんだのは、浮気の可能性だった。
スマホをよく触っていたのは、浮気相手とのやり取りだったのではないか。
そう思うのと同時に、そんなやましいことを隠しているのなら、トイレへ行くのにスマホを置きっぱなしにするだろうかという疑問が浮かぶ。
不安になっていると、考えが悪い方へと飛躍してしまうものだ。
浮気相手やそれを知っている誰かから連絡が来ることを見越して、私の目に留まるように仕向けたんじゃないか――そんな考えが脳裏を過ぎる。
どうしてそんなことをわざわざ。
振り払おうとするが、綾瀬が私に別れを選ばせて、自然的に浮気相手と恋人関係になることを望んでいるんじゃないか、なんて思った。
何も証拠はない。
そんな思い込みでモヤモヤするのは嫌だ。
絶対違う。ありえない。
そう思うのに、言い切れない自分もいた。
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