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フォンッ
先ほどとは違う通知音が鳴る。
これも綾瀬のスマホからの音だった。
怖い。見たくない。
そう思うのに、浮気の可能性を潰したくて、つい通知に目を向ける。
≪予約確定のお知らせ≫
≪12/23(金)のご予約が確定しました。……≫
何の予約かは見えなかった。
店の名前が全てアルファベットだったからだ。だが、≪HOTEL≫の綴りが見えたように思う。
可能性を潰すつもりが、余計に浮気が疑わしく思えた。
「ただいま」
トイレから戻ってきた綾瀬が、私の隣に腰を下ろし、サッとスマホをポケットに押し込んだ。
それ、何の予約?
と聞いてみようか。そんな考えが過るも、聞こうと口を開いた途端心臓とおなかが締め付けられるような痛みが走る。
重要なプレゼンや発表前に、緊張しているときの感覚に似ている。
理性ではなく本能で、これは聞いてはいけないことだとわかっているようだった。
「あの、さ――今年のクリスマス、どうする?」
あのさと切り出した瞬間、綾瀬の顔が強張ったのを見逃さなかった。
きっと綾瀬は、スマホのメールのことを聞かれると思ったに違いない。
これは女のカンだ。
「えっ?あ、あぁ…架純の仕事、確か23までは忙しいんだよね?」
「うん。クリスマス直前だから、応援で呼ばれるかもしれなくて何とも言えないかも」
店長に昇進することが、つい先日決まった。
クリスマス前で、ただでさえ店舗が忙しいことに加え、店長になるための研修の予定がシフトの合間を縫って組み込まれた。
店長になるのは、年明けの1月中旬の予定だ。
それまでに研修を終えなければならないので、年末まではバタバタと慌ただしい。
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