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「24日の夜、架純が仕事を終えた後、家でささやかに祝うのはどう?」
「……うん、そうだね」
私とのクリスマスは、家なんだ。
じゃあ、さっきのホテルらしき場所からのメールは何?
23日って書いてあったよ。
私以外の誰かの為に、お金をかけるんだ。
私は、綾瀬以外の誰も見ていないのに。
“私はあなただけを見つめる”
不意に、向日葵の花言葉が脳裏に浮かぶ。
私は、綾瀬を見ているけれど――綾瀬は一体、誰を見つめているの。
その目線の先に、私はいるの?
「あ、そういえば」スマホを見ながら綾瀬。「兄さんたちと会う日なんだけど、12月3日で決まりそうだよ」
来週かぁ。私はスマホのカレンダーで見ながら思った。
私が、綾瀬のお兄さんやその奥さんと顔を合わせる必要って、あるのかな。
少し前までは、緊張しながらも楽しみだった。
でも、浮気されているかもしれないと思ったら、顔を合わせても無意味なんじゃないかと思えた。
「ねぇ、綾瀬」
「ん?」
目が合う。
私、綾瀬のこと信じていいの?
「……ううん、何でもない。映画見よ」
◇◆◇◆
「はぁ…緊張してきた」
「大丈夫だよ。気楽に行こう」
顔合わせの場所は、百貨店の最上階のレストラン街にある寿司屋になった。
綾瀬のお兄さんがお店選びも予約もしてくれたらしい。
寿司屋に入り、待ち合わせであることを店員さんに伝える。
既に綾瀬のお兄さんもお義姉さんも来ているようで、すぐに個室に案内された。
「来たよ」
「お待たせしてすみません」
ひょいと手を挙げて挨拶する綾瀬の隣で、カチカチに緊張した私は頭を下げる。
綾瀬のお兄さんの手元には杖があって、足はサポーターで固定されていた。
そんな彼への対応なのか、お座敷に似つかわしくない椅子が置かれていて、彼はそこに座っている。
「初めまして、綾瀬…さんとお付き合いしている架純です」
「架純さん、初めまして。兄の郁人と…」
「郁人の妻の恵理です」
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