*11* 恋人終了宣言

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いつも私が不安に思っていることには気づきもしないのに、こういう時は気にかけてくれるんだ。 僻むつもりなんて毛頭ないのに、そんな嫌な考えが心に蔓延る。 「でも、」 「ひとりで行けるってば」 綾瀬はただ心配して追いかけてくれただけなのに。 私、今すごく嫌な女だ。 それはわかっている。でも、こういう時だけ優しくされたって嬉しくない。 トイレを済ませ、レストラン街に戻ると、お手洗いの傍で綾瀬が待っていた。 「ひとりで行けるって言ったのに」 「…何か、放っておけなかったから。言いたいこと我慢してるような顔、してるよ」 「…、っ」 誰が、そんな顔をさせてると思ってるの。 私は綾瀬を睨んだ。 「我慢しないで言って」 何よそれ。 私はぎゅっとこぶしを握り締めた。 「じゃあ、言うけど…。綾瀬、私に何か隠してるよね?」 「え」 私の言葉が予想外のものだったのか、綾瀬がたじろぐ。 その顔には、明らかに動揺の色が浮かんでいた。 図星だ。やっぱり何か隠してる。 私は下唇を噛み締めた。 「隠してるよね」 強めの口調でもう一度言う。 綾瀬は、無言で首を横に振った。 ふぅん。嘘、つくんだ。 やっぱり、と思うのと同時に、嘘はつかないでほしかったという悲しさが滲む。 「私のこと、捨てようとしてるの知ってるよ。なのに、どうして郁人さんたちに会わせようって思ったの」 「それは…っ、それは違う!」 綾瀬が大きな声を出した。 レストラン街を歩く周りの通行人の視線が、私たちに集まるのを感じた。 「ちょっと」綾瀬が私の腕を掴む。「こっち、来て」 有無を言わさず、綾瀬は私の手を引いて歩き出す。 どこへ向かうのかわからなかったけど、歩きながら綾瀬が誰かにRAINを送っているのが見えた。 「TAKAって人から、彼女にバレるなって、RAIN来てたの知ってるんだから」
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