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【Side綾瀬】
アレを、見られてた。
心臓が早鐘を打つ。
兄さんにRAINで連絡を入れる指が震えた。
動揺してはダメだ。そう思うけど、指の震えは止まらない。
深呼吸して、スマホをポケットにしまう。
エレベーターで下の階に移動しながら、少し後ろに立つ架純の顔を盗み見た。
怒っているというよりは、悲しそうな顔をしている。
「…言い訳、しないんだ」
しないってことは図星なの。と架純が呟く。
違うと俺は否定したけど、架純のリアクションは薄かった。
「乗って」
俺が咄嗟に架純を連れてきたのは、百貨店の3階にある観覧車の乗り場だった。
この百貨店には、観覧車がついていて3階から乗れるようになっている。
1周20分ほどの観覧車で、ゴンドラがシースルーなのが売りだ。
架純は、どうしてと言いたげに俺を睨みながら、観覧車に乗り込む。
俺も続いて乗り、外の景色が一望できる観覧車に、向かい合って座った。
「綾瀬さ、23日は――」
「架純」
架純の言葉を遮り、俺は架純の手を握った。
今言っても、響かないかもしれない。
断られるかもしれない。
でも、今言わなきゃいけないと思った。
ゆっくり深く息を吸い込み、慎重に選んだ言葉を吐きだす。
「俺と結婚してください」
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