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最終面接に進める!
軽い足取りで会議室を出て、エレベーターホールへ向かう。
そこには数人先客がいた。ほとんどが色の薄いスーツだったけど、その中にひとりだけリクルートスーツの学生が混ざっている。
あ、さっきの。
横顔でわかった。グループワークで一緒だった湊さんだった。
皆先に帰ったのに、今帰りってことは、湊さんも声を掛けられていたのかな。
彼女、R大学って言ってたな。遠くはないけど、近くもない。
今日、このまま別れたら――もう二度と会わないんだろうな。
声を掛けてみようか?
いや、何て声掛けるっていうんだ。
俺は就職活動に来たのであって、恋活をしているんじゃない。
それは相手もそうだ。
話しかけたって、まして連絡先なんか聞いたって、迷惑でしかないだろ。
躊躇っているうちに、エレベーターが来た。
エレベーターに乗り、オフィスビルの1階まで下ると外に出る。
駅へ向かう集団の中に、彼女の姿はなかった。
帰りの方角は違うようだった。
そりゃそうだよな。俺は長く息を吐く。
綺麗な人だったな。
もし――もしも、最終面接を通過して、俺も彼女も内定がもらえたら。
そうしたら――
「んっ!?」
そうない奇跡を考えながら駅のホームに着いた俺は、驚いて思わず足を止める。
俺の向かう先に、湊架純がいた。
この駅には、他にもいくつか路線がある。
駅へ向かう集団の中に、彼女の姿はなかった。はずなのに、彼女は俺と同じ路線のホームに立っていた。
これを逃したら、きっともう会わない。そんな気がした。
話しかけなかったら後悔するに違いない。
そう思うほど、俺は湊架純の顔に惹かれていた。
これが、いわゆる一目惚れというやつなのだろう。
話しかけて拒否られても、この先会わない人だ。ネタにされても痛くもない。
聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥と思えばいい。
「あ、あのっ」
意を決して話しかける。しかし、彼女は振り向きもしなければ、返事もしなかった。
無視された。ということは拒否されたということか。
引き下がろうとして気づいた。
彼女の耳に、ワイヤレスイヤホンがハマっている。
「あの」
俺は、何を思ったか彼女の肩をポンと叩いていた。
驚いたのか、彼女が弾かれたように顔を上げる。
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