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「あ」
俺の顔を見た彼女が、小さく声を発した。
それから俺を指さし、「さっきの」と微笑んだ。
大きな目が細められたのと同時に、目の下に涙袋がくっきりと現れる。
笑っても綺麗なままなんだ。思わず目を奪われた。
「インターン、お疲れさまでした」
「あ、お疲れさまでした。あの、よかったら――」
しまったな。声を掛けることしか考えていなかった。
何を話すか考えていなかったから、さっきの発表の時みたいに噛んでしまいそうだ。
「よかったら、連絡先とか」
その時、電車の到着を知らせるアナウンスが流れ、俺の声は電車の走行音に掻き消された。
湊架純は怪訝そうにこちらを見ていたけど、やがて到着した電車から降りて来る人の波に呑まれ、姿を消してしまった。
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