*01* 運命的な出会い

6/9
前へ
/112ページ
次へ
【Side架純】 さっきあの人、何を言いかけていたんだろう。 電車から降りてきた人が多くて、見失ってしまった。 就活解禁日前だというのに、意外と電車の中にリクルートスーツを着た人が多くて、それっきり彼を見つけることは適わなかった。 と思っていた。 「…どうも」 アパートの最寄り駅で電車を降りたところで、私は頭を下げる。 私と同時に電車を降りた乗客の中に、グループワークで一緒だった彼がいた。 「つけてきた訳じゃないですから!」 慌てたように彼が言う。 別にそんなこと疑わないのに、面白い人だ。 「この辺なんですね」 「そうなんですよ。大学まで実家から通ってるんで…」 実家がこの辺なんだ。都会近郊に実家があるのってなんかいいな。 「あ、そうだ。電車乗る前、何か言いかけてませんでした?」 遮られて聞こえなかったから、気になってたんだよね。 私の質問に、彼は顔を赤くした。 「よかったら、連絡先交換しませんか?」 小さな声だったけど、今度は聞こえた。 爽やかに手足が生えたような雰囲気の人なのに、まさかのナンパ? 「あ、あの、同じ企業のインターンを受けたから、その、仲間意識っていうか、近況報告とかできたらいいなって。…思って」 あ、私の自意識過剰だった。うわ恥ずかしい。 私はポケットからスマホを取り出した。 「いいですよ」 もしかしたら、同じ会社で働くかもしれない訳だもんね。 それに、最寄り駅まで一緒って、親近感が湧く。というかもはや、運命じみたものすら感じる。 「ホントですか?」 胸の前で小さくガッツポーズしながら、彼もスマホを取り出す。 何でガッツポーズ?ちょっと変わった面白い人だな。 一瞬彼のスマホの壁紙が見えた。 ほんの一瞬だったからわからないけど、私のと似たライブ中の記念写真みたいな雰囲気の写真だったように見えた。 「今の…」 「コレ、俺のRAIN(レイン)のQRコードです」 彼がQRコードの画面を差し出してくる。 私は慌ててアプリを開き、QRコードリーダーで読み取った。 “あやせ”という登録名のアカウントが表示される。 「そう、それです」 「友達追加しました」 私はそう言って“あやせ”さんとのトーク画面に、スタンプを送る。 「俺も追加しました」 「はーい。じゃあ、お互い就職活動頑張りましょう」 ぎこちなく手を振って別れた。 ひとり暮らししているアパートに着くと、RAINを起動し“あやせ”さんとのトーク画面を開いた。
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!

302人が本棚に入れています
本棚に追加