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「だから、やめようと思うんだ。今の会社」
「えっ」
やめる?
愚痴かと思って聞いていたけど、前向きな話だったんだ。
「そっか。もう転職先は決まったの?」
遠くへ行ってしまうんだろうか。
なんて、そんなこと気にする資格、私にはないのに。
どの立場で気にしてるんだろう?
「まだ。でも、何か所か最終選考まで残ってるんだ。だから、その中から絞ろうと思ってる」
榊原くんが、お義姉さんと見ていたお店を思い出した。
確かネクタイや男性ものの靴下を売っているお店だった。
転職活動のための買い物をしていたのかな。
「そうなんだ」
決まったら教えてね。
そう言おうとして、言葉を呑みこむ。
それを言う権利は、私にあるのかな?
「うん。その中から、一番働きやすい場所で働こうと思ってて。休みも、融通が利くところがいいなって。だから――だからさ」
榊原くんがソファから立ち上がり、私の正面にまわると床に膝をついた。
どうしたのかと戸惑っていると、
「俺ともう一度やり直してくれませんか」
榊原くんは耳の端まで顔を赤くしながらそう言った。
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