*08* 気持ちを新たに

6/7
297人が本棚に入れています
本棚に追加
/112ページ
「だから、やめようと思うんだ。今の会社」 「えっ」 やめる? 愚痴かと思って聞いていたけど、前向きな話だったんだ。 「そっか。もう転職先は決まったの?」 遠くへ行ってしまうんだろうか。 なんて、そんなこと気にする資格、私にはないのに。 どの立場で気にしてるんだろう? 「まだ。でも、何か所か最終選考まで残ってるんだ。だから、その中から絞ろうと思ってる」 榊原くんが、お義姉さんと見ていたお店を思い出した。 確かネクタイや男性ものの靴下を売っているお店だった。 転職活動のための買い物をしていたのかな。 「そうなんだ」 決まったら教えてね。 そう言おうとして、言葉を呑みこむ。 それを言う権利は、私にあるのかな? 「うん。その中から、一番働きやすい場所で働こうと思ってて。休みも、融通が利くところがいいなって。だから――だからさ」 榊原くんがソファから立ち上がり、私の正面にまわると床に膝をついた。 どうしたのかと戸惑っていると、 「俺ともう一度やり直してくれませんか」 榊原くんは耳の端まで顔を赤くしながらそう言った。
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!