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【Side綾瀬】
言った。言えた。
顔が急激に火照り、汗が噴き出す感覚を覚える。
恐る恐る顔を上げると、目を丸くして何か言いたげに口を少し開けた状態でフリーズした架純の姿が視界に飛び込んで来た。
「え……え?」
「俺、ずっと架純のこと忘れられなかったんだ」
だって初めて会った日、確信してたんだ。
俺の運命の人は、架純だって。
「私、酷い別れ方したんだよ?ブロックして逃げたんだよ?」
「知ってるよ」
でも、振り向いてくれた。ブロックだって解除してくれた。
俺ともう一度話をしてくれた。
「榊原くんのこと、たくさん傷つけたんだよ?」
「傷ついたけど、怒ってはないよ」
それに、今はどっちかっていうとその無理に距離を置いたような名字呼びの方が傷つくな。
俺は、膝の上で握りしめられた架純の拳を手で包んだ。
「でも、私――」
「それって、嫌だってこと?」
彼女の言葉を遮り、答えを急くように聞く。
別に急かしたい訳じゃない。
ただ、自分を責めるような架純の言葉を止めたかった。
「違う!」
噛みつくように架純が否定する。
「じゃあ――「だって!私がまた綾瀬のこと傷つけたら?綾瀬に嫌な思いさせるかもしれない。それに――」
顔を上げて喚く架純の目から、大粒の涙が零れた。
そっか。架純は俺を傷つけたことをこんなに後悔してたんだ。
彼女の気持ちが、言葉に滲み出ているのを感じた。
「大丈夫。俺、もう架純のことを不安にさせないから。そしたら、架純が俺を傷つけることも起きないでしょ?…それじゃダメ?」
架純が、手の甲で涙を拭った。
目元のメイクが擦れて手の甲についたのに気づき、彼女はジュースを拭いたタオルで顔を覆い隠す。
「ダメな訳ない」
消え入るような小声だったけど、ハッキリと聞こえた。
それってつまり――
「綾瀬と同じように、私だって別れたこと後悔してたんだから」
別れを切り出したのは架純だった。
でも、それを決意させたのは俺だ。
次こそは、次こそは大切にしよう。
今まで以上にもっとずっと、彼女が嫌がるくらいたくさん。
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