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「おまえズルいな」
思わず口からこぼれた言葉を取り繕わなかった。
「なんで」
「俺なんか受験勉強に必死でさ、絶対に俺の方がまっとうな高校生なのにさ、なんでこんな危ういお前の方がキラキラしてんだよ」
俺はいつもお前が羨ましい。
自由で、のびのびとしてて。
タモツが斜め上を見上げて、徐に口を開いた。
「俺さ、留年したワケ、誰も聞かないから言うつもりなかったんだけど、お前になら話してもいいかな」
「どうした? バイクでも乗り回して暴れまくってたのか?」
見掛けがそういってる。
「人を見掛けで判断するな。...実は、引きこもってたの」
タモツがバツが悪そうに頭を掻き、俺は想像もつかない答えに思わず吹いた。
「そうなのか!」
「ああ、高校3年の時にイジメにあってな、引きこもってた」
「おまえがイジメ!?」
「そうそう。めたんこやられた」
タモツが笑う。
「なんだそれ」
「そう。なんだそれ。...で、俺を立ちなおらせたのが、一冊の写真集。世界遺産の写真なんだろうけどね、そこもなんだけど、一緒に写ってる人の笑顔が忘れられなくてね、いいなって。世界中のこんなの撮りたいなって思ったんだ」
こんなタモツ知らない。
「やっぱ、おまえズルいわ」
一人だけ羽ばたいてズルい。
俺はいつもお前をバードウォッチングしている気分にさせられる。自分が出来ないこと全部やって、退学は怖くない、世界中を回るっていう。そんなおまえを、自分はただ双眼鏡で覗いているだけだ。
「覚えてる? おまえが初めて俺に言った言葉」
タモツがそう言った後、氷の溶けたコーラーをごくりと飲んだ。
過去を思い返しても何も思い出せない。首を傾げた俺に、だよなと言いたそうな顔をしたタモツが口を開く。
「めたんこにイジメられてビビっていた俺にさ、『一つ上なんて関係ない。仲良くしようぜ』って言ったんだぜ。怖くて誰も話し掛けないのにさ、怯むことなく正面から挑んできた。お前、いつも真っすぐでさ。俺は、どんなに苦しくても机に向かって頑張っているお前の背中に負けたくないって思っていたんだ」
皿に盛ってある生の鶏肉をタモツが箸で掴み、話を続けた。
「俺はお前を立派な鶏肉だと思っているよ。お願いだから、俺を置いていかないでねっていつも思ってたよ。だから、お前に負けたくないから早く飛び出したかったんだよ」
なんだこいつ。
ぜったい泣かない。
注文自動パネルを取り、指で画面を操作する。
「別料金のピザ頼んでもいいか?」
「ダメだ」
--END
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