バードウォッチング

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タモツは一つ年上の同級生だった。   初めてタモツに会ったのは、忘れもしない高3の春だ。一コ上にダブったやつがいることは知っていたが、そいつが同じクラスになることまでは知らなかった。しかも、隣の席になるなんて予想もつかない。 タモツは、初日からヤバい奴だった。頭は茶髪で、制服は着崩し態度はでかい。合わせて図体も、でかい。椅子に浅く座って背もたれにもたれ掛かってるし、長い足が机からはみ出してるし、前席の田中は軽くビビってるし。 何をしでかして一年ダブったのか、鋭い目つきのこいつに正面切って聞ける奴なんていないだろうな。絶対にこいつは住む世界が違うんだろうな、...って思っていたのに、今、目の前で、この一つ年上の目つきの悪い同級生は焼肉を食っている。夏の夜、食べ放題「にくだらけ」の満員御礼の一コマに俺とタモツはいた。 しかも、タモツのおごりで。 「で、なんでお前、退学になったの?」 食べ放題の安いカルビを網焼きの上に乗せた。肉の焼ける音と匂いが場の雰囲気を盛り上げる。 「んー、バレた」 タモツは、平然と焼けたカルビを平らげた。 「何が?」 「バイト」 「なんの?」 「ホスト」 思わず、箸で移動している赤身の牛肉を網の上に落とし、牛肉がシューっと音を立ててる。 「ポスト?」 「ばか、ホストだよ」 軽く次元を超えている。 「は? ばかはおまえだ。自由すぎて意味わからん。っていうか高校生が働けんの?」 「俺、高校生に見えないもん」 「もんじゃねえ」 「お酒はNGだけど18歳だったら雇って貰えるんだ。もちろん、高校生なのは隠したけどな。音楽の矢野が客で来てさ、バレて、学校もバイトもクビ」 夏休みの真っ只中、タモツからラインで退学になったと送ってきた時は、衝撃で頭が真っ白になったのに、今は衝撃を通り越して呆れてしまった。 「おまえ、退学、怖くないの?」 初めてタモツが俺と目を合わせ、瞳の奥に意思のようなものが見えた。 「べつに。もともと学校に執着してないしな。親がどうしてもっていうから通ってただけ」 タモツはいつもそうだ。 『鳥』みたいだ。背中に羽があって、自由にどこかに飛んでいきそうだった。 「おまえは、鳥みたいだな」 思わず目の前の焼けた鶏肉を、箸で突き刺した。 「...こわ。お前、鳥に恨みでもあるのかよ」 箸で突き刺した鶏肉を見ながらタモツは言う。
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