こいつらは不幸を呼ぶ妖精だ

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こいつらは不幸を呼ぶ妖精だ

「う、嘘だろ……」  仄かに発光するそれは、瞬きを繰り返す度に発光を強め、やがて小さな人型の何かへと変貌していく。  そして変化が終わると、次第に発光も収まり始め、それは姿を現した。 「ミューーーーーー!」  可愛らしい声色に、全身を淡いピンク色で包まれた拳程の大きさの妖精の姿。 背中に生えた2枚の羽を元気に羽ばたかせて俺の眼前で浮いている。   「よ、よりにもよって……桜なんて」 つ、ついてない。いや、0.001%を引いたのだから、運がいいのか?   イヤイヤ、そんな事はどうでもいい。こんな奴を連れてコンビニなんて行けるわけがない。  俺は眼前で浮遊する妖精を掴んだ。そいつはふにゅ?! と驚嘆の叫びを上げたが、構いはしない。 「はあ、はあ」  急いで俺は自室に逃げ込む。安心しきったように手の力を弱めると、そいつはフラフラと右往左往しながら部屋中を飛び回っている。  どうしてこうなったのだろうか。俺はソファの上で眠るように横たわる。……もうこのまま眠ってしまおう。明日は俊平との祝勝会だ。早く眠るに越した事はない。  雑な現実逃避で己を納得させ、俺は目を閉じる。   「ミューーーー!」  それなのに、飛び回る妖精の鳴き声が五月蝿くてなかなか眠れない。  ……やはり妖精は大っ嫌いだ。  アラームのジリリリ、ジリリリ、の音で目を覚ます。寝ぼけ眼で時計を見ると時刻は十一時を示していた。 「不味い、遅れる!」  昨日はあの妖精のせいで中々眠れなかった。内心毒突き、ばっ、と上体を起こす。 「ミュッ?!」  桜の妖精は驚嘆の声を立てる。どうやら俺の腹で寝ていたようだ。 「くそっ、邪魔だな……ってそれより早くしないと」  俺は急いで外出用の服に着替え、ポーチバッグに最低限の必要品を入れる。俺は自転車を持っていないから、目的地までは全力ダッシュだ。  妖精にはしばらくの間留守番をしてもらうことになるが、まあ、構わないだろう。 「はあ、はあ」  馴染みのファミレスに着いた。備え付きの時計に目をやると、時刻は十一時五十分。 「な、何とか間に合った」  肩でゼェゼェ息をしていると、馴染みの声が聞こえてきた。 「おーーす、早えな」 「そっ、そっちこそ」  自転車でやってきた俊平は、鮮やかなカーブを描いて駐輪場にピタッと止める。 「よし、入るぞ」  俊平は率先してファミレス店に入った。俺も後を続こうとして、ふと俊平の肩を見ると、菜の助が俊平の首に寄りかかっている。  お前はお呼びじゃねぇんだよ、と口を衝いて出かかったが、俊平がいる手前流石に自重した。  そして俺たちは祝勝会を開いた。  暫く楽しい時間を過ごして、お開きになった後、俺は帰宅した。  「ミューーーー!」  俺が玄関扉を開けると、桜色の妖精が元気よく飛び回っていた。 「はぁ?!」  リビングに入ると、本棚に整理していた本はぐちゃぐちゃに掻き乱され、コーヒーが入ったコップは床に撒き散らすように横たわり、水道ではジェット噴射の勢いのまま大量の水を浪費していた。 「ふ、ふ、、ふざけんなぁーーーー!!」  俺が憎悪を振り撒くように妖精を睨み付けるが、当の本人はふにゅ? とこれといって気にしていない様子。  片付けが一段落する頃には時刻は八時を指し示していた。酷く時間を浪費してしまったようだ。  どいつもこいつも、俺の周りには不幸を撒く妖精しかいないのか。   「ん? 待てよ」  そこで俺は気付いた。そういえばこいつにちゃんとしたお願い事をしたことが無かった。もしかしたら、そうしないと俺に幸福の力を与えてくれないのかもしれない。  それなら俺が叶えたい願いは一つだ。俺は妖精をしっかりと見据える。 「……どうか、生前の母さんに合わせて欲しい」  そう呟いたところで嘆息にも似た微笑を浮かべる。幾ら妖精でも流石に無理だ。ましてや桜の妖精なんて……。  そいつは気にもしないように相も変わらず元気よく飛び回っている。ふと睡魔が俺を襲う。今日は色々ありすぎた。もう寝よう。  ……明日は俺にとって特別な日だ。
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