1人が本棚に入れています
本棚に追加
俺には姉がいた。けれど、血の繋がりはないし、ましてや人間ではない。妖精だ。それも、桜の妖精。両親がいない、独りぼっちな俺の心の拠り所だった。
幸せな日々だった。しかし、妖精の寿命は短い。俺が五歳になると、妖精は息を引き取った。俺は沢山泣いた。亡骸は母さんの墓の隣に埋めた。
それから小学校に入って、俺は妖精が幸福を齎す存在だと知った。その時の衝撃は、今でも鮮明に思い出す。
桜の妖精は母さんと結ばれていた。なのに、何で母さんは死んだんだ? お前は何をしていた? どんな気持ちで俺と接していたんだ?
幸せだった俺の日常が、一瞬にして崩壊していく感覚。吐き気がした。
ずっと疑問に思っていた事がある。何で母さんは俺を産んだのだろうか。父さんと離婚したのに。母さんは、妖精を頼りにしていたんじゃないのか? 不安で堪らない中に差した、一筋の光。なのにお前は、母さんの期待に応えず、裏切った。
だから俺は許さない。妖精なんて、結局は私欲のために動く獣だ。とりわけ、そいつは桜から生まれたから、いつしか俺は桜を嫌いになっていた。
最初のコメントを投稿しよう!