導き

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導き

「ミューーーーーー!」  飛び回っていた妖精の甲高い叫びが聞こえる。そいつは、一本の桜の木の根元に着地していた。  新緑に囲まれた中に佇むピンク色の花を満開に咲かせたその木は、母さんの妖精だ。  妖精の亡骸を埋めると、生前の姿のまま生え変わる。  母さんの妖精は桜の木となって毎年のように成長を続けている。母さんは、もうずっと時が止まったままだというのに。 「ミューーーーーーー!」  やけに俺の妖精が五月蝿い。そいつに目をやると、必死に地面を指差していた。 「ん? 何かあるのか?」  俺は妖精を退かせ、少し掘ってみる。すると何やら硬い感触が肌を通して感じる。 「な、何だこれ?」  掘り返すと、手のひらサイズの容器だった。蓋付きのようで、かぱっ、と開けてみると一通の手紙が入っていた。  どうしてこんなとこに、そんな疑問が頭を支配するが、どうしても中身が気になる。  俺は唾を呑みこみ、開封した。 『初めまして……かな、元気にしてますか? 集の母です』 「母さん?!」  衝撃が走る。母さんの手紙……。俺の中で様々な疑問が渦巻くが、手紙は続いているようで、震える手で目を通す。 『きっと集は驚いていると思います。結論から言うと、私の妖精に頼んで私の墓の近くに埋める事にしました。それを貴方が掘り返しているということです。手紙にしているのは、もう私は長くはありませんから、直接話す事が出来ないからです。私は心配しました。私が死んで、集が一人になってしまう事を。そして集はいつか気づくと思ったのです。妖精がいながら、私が死んでしまった不可解な現象を』  当たり前だ。それをずっと胸に抱えて、生きてきたんだ。 『優しい集なら、きっと私の妖精を恨むでしょう。けれど、私の妖精は確かに私に幸福を齎してくれました』  ……嘘だ。現に母さんは死んでいるじゃないか。 『私の妖精を恨むだけなら構いません。けれど、それがきっかけでもし貴方が妖精と出会った時に、同じように恨まないで欲しいのです。だから、こうして手紙で真実を伝えようと思います』  真実って何だ? あいつは母さんを見殺しにしたんだ。 『集が産まれた時、集は酷い未熟児でした。私のせいです。当時、私は集のお父さんと離婚して、多大なストレスを感じていました。集は生死を彷徨い、私は出産の影響でもう長くはないのだと悟りました。だからお願いしたのです。どうか、集の命だけは助けて欲しい、と。集が助かったのかは、私には分かりません。けれど、コレを読んでいるということは今も元気にしているのでしょう。そして、集の妖精がこの手紙へと導いてくれたのでしょう。流石、集の運命のお相手です。本当にありがとう。私の可愛い集。どうか、これからは妖精を大切に思い遣ってください。運命のお相手はきっと貴方を幸せにしてくれます。最後になりますが、私は集を愛しています。これからも、ずっと。      母より』  一滴の雫が頬を伝って、手紙を滲ませた。 「ずっと、ずっと……見守られていたんだ、母さんに。そして……母さんの妖精にも」  視線を母さんの妖精に移すと、先程よりもずっとずっと、壮大な印象を受けた。 「ミューーー」  すると俺の妖精が必死に俺の涙を豆粒のような指で止めようとしてくれた。  俺は両手で優しく妖精を包み込む。 「ありがとう、俺をここに導いてくれて」  妖精は確かに幸福を齎す存在だったのだ。  そよ風が俺を包み込む。それに混じる仄かな桜の香り。母さんの妖精は、今でもここで生きている。
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