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「何でそう言えるの」
と聞くと、
「楽しいから」
と一言だけ返ってきた。
それだけじゃ納得できなくて、どうしても納得できなくて、夜遅くにまた私はルイくんに質問した。
「そこは、ほんとに大丈夫?」
すると、ルイくんは、
「大丈夫。」
と返してきた。
「ここはとても居心地がいいから」
そうなんだ。
私は思った。
もう、違うんだきっと。
私はルイくんと、遠くかけ離れてしまったのかもしれない。
ルイくんは立ち止まってなんかなくて、ずっと歩き続けていたんだ。校舎の外へ。その先にある世界へと。
制服を脱ぎ捨てたルイくんと、最後の最後まで制服を身にまとっていた私。
固い殻の内側にいたのは、もしかしたら私の方、だったのかもしれない。
私は、ルイくんの写真展に行くことにした。
写真展は三月にあった。受験勉強は後期試験が近づいていて、私は片時も暗記ノートが手放せない。写真展にも携えていく。
何が遠回りで、何が近道なんだろう。
そもそもゴールが分からない。
今の私は、夢も目標もはっきりしないまま、ただやみくもにがんばっている。目の前のことを頑張れば何とかなると、それしかないから。いつか、何かが見つかると、信じたいから。
だから。
だから、ルイくんには幸せになってほしい。
証明してほしい。何があっても、どんな道のりをたどったとしても、きっと未来にハッピーエンドと呼べる瞬間が訪れるということを。
そしたらそれが、私の力になるって、そんな気がするんだ。
写真展は、私が抱いていた東京のイメージとは違い、古くて小さなアトリエでやっていた。すでにお客さんが何人か、出たり入ったりしている。
入り口のところに、ルイくんが見える。仲間らしき人たちと、おしゃべりしてる。
面と向かって話すのは久しぶりだ。緊張する。ちゃんと、声出るかな。
「ひさしぶり」
と、ルイくんの方から気づいてくれて、ほっとした。
「来てくれて、ありがとう」
「ううん。ルイくん、背、伸びた?」
「うん。まだ伸びてる気がする」
「うそ。すごいね」
ルイくんは明るく笑った。
それを見て。私はなぜか、涙が出てきて。何か言わなきゃ。って思って焦った。
でもほかには何も思いつかなくて。
私は、
「よかったね」
って、ただそう言ったのだった。
おわり
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