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――翌日。小次郎とロダは、天城典示が遺体となって発見された公園に向かう。公園は立ち入り禁止になっていた。
周辺には『スタジアム建設反対! 住民の憩いの場所を奪うな』と書いてある看板が掲げられている。
「天城典示は公園の中で発見されたんですよね。でも、公園の中には入れませんよ」
ロダが公園を指さす。何もないところを指したのだが、抵抗感があった。どうやら、公園全体に透明な障壁が張られているようだ。
「ゾーネ社がフィールドを張ったようだ」
小次郎は呟いた。
「ゾーネ社は、予定通りここを取り壊すつもりだな。だから入られないようにしたと」
「天城典示は、どうやって中に入ったんでしょうか」
「ふふふ」
突如、小次郎は含み笑いをした。
「どうしたんですか」
ロダは心配そうに声をかける。
「だって、これ、密室殺人じゃないか! まさにミステリーだ! 探偵だったら一度は憧れるシチュエーションだ!」
小次郎は目を輝かせながら言った。
「何言ってるんですか。マスター、殺人事件ですよ」
ロダは呆れたようにこぼした。
「とにかく、一旦戻ろう。ここに長居したら面倒が起こりそうだ」
そう言うと、小次郎はロダと共に事務所に戻った。
「マスター、現場に入れないんじゃ調査ができませんよ」
事務所に戻るなり、小次郎はパソコンを立ち上げ、画面と睨めっこを始めた。その様子を、ロダは訝しそうに見ている。
「俺を誰だと思ってるんだ。名探偵風雅小次郎だぞ」
「初めて聞きましたよ」
ロダの憎まれ口にも構わず、小次郎はパソコンの操作を続ける。しばらくすると、画面に先程の公園が出てきた。
「これで中の様子がわかるぞ」
「凄いです。どうやったんですか?」
ロダは怪訝そうな様子から一転、尊敬の眼差しで小次郎を見る。
「障壁はカメラにもなってるんだ。障壁を出してるコンピュータをハックして、このパソコンにも写してるというわけ」
「ハッキングは違法です」
ロダは真顔で答えた。
「人が死んでるのに、うやむやにしてる方が悪いのっ」
小次郎は開き直った。
「天城典示は、公園の隅にある桜の木の下で殺されたみたいだ」
小次郎は気を取り直し、事件があったとされる時間帯のカメラ映像を見た。画面に、桜の木の下で倒れている天城が映し出される。
「御手洗幸子は『銃痕があった』って言ってたけど、ここからじゃよく分からないな。どちらにせよ、ここで死んだことは間違いなさそうだ」
「時間を遡れば……あれ?」
倒れた時刻から遡ろうとしたとき、画面がブラックアウトした。
「なんで消えたんでしょうか」
「この時間に、誰かが障壁を消したからだろうね。消えてる時間は……十分か。さっきの画面は午前一時半だから、殺害された時間は一時二十分から半の間、といったところか」
「殺された時間はわかったけど、これだけじゃ犯人はわかりませんね」
「いや、手がかりは掴めたぞ。まず、犯人は俺のようにハッキングスキルがある。そうじゃないと障壁解除はできないからね。これで、だいぶ特定出来る。それと……」
小次郎はもう一度、天城が倒れている場面を出した。
「桜の木の根元なんだけど、掘り返した跡がある。おそらく、ここに何かが埋まってたんだろう」
「何が埋まってたんでしょうか」
「なんだろうね。でも、大事なものなのは確かだ。犯人は、これ目当てで天城典示を殺害したのかもしれない」
小次郎は大きなため息をついた。
「なーんだ。障壁解除しただけか。密室トリックとしてはつまんないな」
「つまんないってなんですか。だいたい、犯人はわかったんですか?」
「こういうのは、だいたい第一発見者が犯人だ」
「だいたい第一発見者って、いい加減じゃないですか?」
ロダは呆れたように言った。
「とにかく、捜査の目処はついた。次は――」
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