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宇崎恵子
「両足のハンディにも関わらず、車いすラグビーで見事金メダルをとりました。日本中が感動し、勇気づけられました」
何が勇気だ。
何が感動だ。
私はそんなもの一片も感じたことがない。
宇崎恵子はパラリンピック放送に嫌気がさし、リモコンでテレビを消した。
どうも自分の病気が悪化しているのではないかと思い、メンタル・アイを装着する。
恵子の周りに3割ほと、卵の殻のような物体が見え、厚さも、いつもよりも増しているようだ。
メンタル・アイは10年ほど前、天才科学者、アラン・ボイジャー氏が開発したメガネ型デバイスだ。
素人の恵子にはよく分からない機構だが、精神疾患を目で見える形に定量化できる機械だ。
微弱脳波、ドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質の流れ、脳血流などを測定し、その人がどんな心の病をかかえているか、それがどのくらい悪化しているのかを表示する。
見え方は、眼鏡型のメンタル・アイを装着すると、対象の周りに卵型の殻が表示されるというものだ。うつ病、発達障害、統合失調症などで殻の色が異なり、重症度は殻の大きさと、厚みで判断できる。
精神医学会は発売当初、
「素人判断は危険で、我々専門家に任せるべきだ」
という声明を発したが、一般の人にも、通常は見えない心の病が見えるということで、声明を無視するように使用が増えていった。
その反響の大きさに、精神科医や公認心理士も逆らうことが困難になっていった。メンタル・アイの診断はDSMと、完璧ではないもののほぼ一致した。
メンタル・アイを装着することで、今の段階の精神病薬治療が上手くいっているか、認知行動療法が功を奏しているかが可視化される。
精神の病気は、他の病気とは異なり明確な検査異常値が存在しない。もちろん、精神分析やチェックシートなどである程度の評価を下せるようにはなっているが、どのくらい悪く、いかに治療が上手くいっているかを判断しにくい。
それがひと目で分かる社会になったのだ。
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