宇崎恵子

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「君は、ちょっと精神的に障害があるだろう。同じような境遇の人と分かりあえると思ってね。今の仕事はハードワークだろうから、こちらの方が伸び伸びと働けるように思ったんだ」 「つまり、私に係長職は任せられないと」  思わず本音が出てしまう。 「いや、まあ、肩書は無くなるが、給与は係長並みを約束しよう。せっかく我が社も障害者を雇用して、戦力として活躍してもらおうと思っているんだ。君が適任だと思ってね。やってもらえるだろう?」  ここでノーと言えば会社に居所が無くなる。  恵子は嫌々ながら頭を下げた。  最悪だ。  恵子は部長室を出て、長い溜息を吐いた。自分がうつ病だから精神疾患に対応しやすいだと。思い違いにもほどがある。  確かに精神疾患の分類は覚えた。だが、発達障害、適応障害、そううつ病、統合失調症。それら全てに対応できるなんて勘違いも甚だしい。  渡された社内マニュアルは、 『障害の程度を把握し、可能な範囲の業務を執り行ってもらう』  の一言だけだった。  そんなもの誰だって思いつくが、実行できる人なんてそうはいない。  結局、恵子が貧乏くじを引いたのだ。係長職を辞めさせられ、慣れない障害者相手の仕事を押し付けられる。恵子は見た目で障害者だと分かったから、そんな仕事が回ってくるのだ。  メンタル・アイの最低な特徴が現れた。  社会学者が危惧していたことだ。自分は精神障害者だと、バレずに仕事をすることができなくなった。障害に理解のある上司に巡り合うことは、おみくじで大吉を引きあてるようなものだ。  会社は障害者も雇っていますとホームページの福利厚生欄に書きたいだけなのだろう。そのせいで、恵子は書いたことも無いマニュアルを作らされ、採用や教育に駆り出されるのだ。 「まず、自社の障害者の福祉を何とかしてくれ」  恵子の独り言は、廊下に小さく溶けていった。  やる気が出ない。頭が働かない。  病気休職はもう使い切ってしまった。これ以上長期休暇を申請すれば、解雇されるだろう。  恵子はポケットから、メンタル・アイを取り出しかけてみた。  自分を取り巻く卵の殻が、広く、大きくなっている。
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