丸山正道

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丸山正道

 メンタル・アイが登場してから、生きやすい世の中になったと思う。丸山正道(まるやままさみち)は面接会場へ急ぐ傍ら、そう実感した。  正道は統合失調症だ。  しかし、今は適切な投薬のおかげで寛解している。  メンタル・アイのおかげでどの薬が一番病状に合うのかすぐに分かるようになった。それが大きい。 「何だか気持ち悪い」  と言って、避けられることもあり、悲しい思いをしたこともあったが、大半の人間は 「大変だね」  と心配してくれる。  メンタル・アイの登場で、精神科にかかっていることを隠しづらくなったが、好ましい方向として、社会は精神障害者に寛容になった。  履歴書の写真は、ちょっと太った、名前の通り丸顔の、眉がきりっとした中年だ。B型作業所に3年間通い、体力や、精神力に自信がついた。  今度は障害者求人に挑戦だ。  しかしまあ、正道は道路を歩きながら思う。  みんながスマホ画面に夢中だ。どの人も、端末を食い入るように見つめている。  正道は病気が最悪の頃、火星からの殺人電波に悩まされた。この人達はスマホ電波に毒されているのではないかと思う。  いかんいかん、考え事をしていて、面接の時間に遅れたら印象が最悪になる。丸山はバッグの履歴書を確かめ、門脇商事の面接会場まで急いだ。
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