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ふ化
恵子は上司からもらったマニュアルを元に、何とか求人を出し、面接会場をセッティングした。求人に応じたのは二人。統合失調症の丸山正道と、電話では病気を良く話さなかった、村松圭吾という名前の人物だ。
これから面接。気が重い。いっそ投げ出してしまいたい。
うつ病の恵子が、どうやって人の優劣を決めねばならんのか。
そうこうしている内に、時計が十時を回った。
時間だ。
「丸山正道様、入室してください」
恵子は待合室の求職者に入室を促した。
恰幅の良い男性が、一礼して入ってくる。
多少の身なりの乱れは気にしないと心に決めていた。ところが、入室した男性は、綺麗にそろえられた頭髪に、シワ一つないスーツ姿だった。
「規定により、メンタル・アイを使わせてもらいますね」
「どうぞ」
恵子はメンタル・アイを装着する。正道氏の頭上に、小さな、薄い殻が表示された。確かに統合失調症だ。だが、治療の成果なのか、ほとんど常人と変わらない。もしかしたら自分よりも障害が軽いのではないだろうか。
一応障害者手帳も見せてもらう。メンタル・アイの示すとおり、精神疾患2級だった。
「弊社を志望した動機を聞かせてもらえますか?」
「今まで作業所で訓練していましたが、今度はへ、すみません、御社で社会貢献したいと考えたからです」
受け答えもスムーズだ。練習してきたのだろう。
マニュアル通りに、質疑応答が続く。
正道氏は、面接のお手本のような受け答えをした。
「結果は一週間以内に郵送しますが、ここだけの話、あなたは採用になると思います」
面接官の恵子より障害は軽いのだ。正道氏は正社員でもおかしくはない。
圭吾氏がどんな人なのか見なければいけないが、彼を超える人材だとは思えない。大体、年が50歳だ。年齢差別はいけないけれど、なるべくは若い人材が欲しい。
「ありがとうございます!」
恵子の言葉に、正道氏は大きく頭を下げた。
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