Phase 01 消えた姉妹

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 数時間後、捜査本部に林部夏彦(はやしべなつひこ)警部が戻ってきた。いよいよ本格的な捜査の始まりである。 「間宮家で発生した連続不審死事件だが、間宮美和の死に関して新たな証言が入ってきた」 「林部警部、それは本当でしょうか」 「西田刑事、本当だ。間宮亜紀に関しては100パーセント自殺と判断できるが、間宮美和に関しては他殺という可能性が浮上してきた。事実、彼女が自殺を(ほの)めかす証言は多数あったが、どれも信憑性(しんぴょうせい)に欠ける。そこで、兵庫県警では間宮由香を重要参考人として事情聴取を行おうと思う」  予想外の展開に、仁美は困惑していた。美和は自殺ではなく他殺で、おまけに被疑者は母親である由香? そんな出来すぎた話、ある訳がない。もしこれが推理小説なら、読み終わってから直ぐに古本屋さんに売り払うレベルである。 「しかし、本当に間宮由香が美和殺しの首謀者でしょうか? 私は正直考えたくないんですけど」 「西田刑事がどう思うかは勝手だが、捜査の権限を持つのは飽くまでも私だ。ここは私の指示に従ってもらう」 「……分かりました」  仁美は、歯を食いしばっていた。聞き込みを行う限り、とても由香が犯人とは思えなかったのだ。むしろ、他殺ならば他に犯人がいるのではないのかと思っていた。  色々考えても仕方がないので、仁美はある人物に助太刀を依頼することにした。その友人は、ミステリ作家の友人ではなく、とある事件で事件の解決を手伝った幸薄の女性である。 【絢奈ちゃん、久しぶりですね。兵庫県警捜査一課の西田仁美です。少し絢奈ちゃんの力を借りたいと思ってメールを送りました。多分ニュースで見ていると思うんですけど、豊岡市内で連続不審死事件が発生しました。被害者は間宮亜紀と間宮美和という姉妹です。資料をお送りしますから、よろしければ一度目を通してくれないでしょうか。それでは。あっ、そうだ。今回の事件が解決したら、一度淡路島に行きませんか? 開放的な場所で色々と話をしたいですし 兵庫県警刑事部捜査一課 西田仁美】  果たしてこのメールが彼女に届くのだろうか。メールアドレスのスペルはチェックしたし、間違っていないことも分かっていた。けれども、彼女はとても気難しい人物である。そもそもメールを読んでくれるのかは分からない。彼女のことだからそのままゴミ箱に捨ててしまうかもしれない。そう思った仁美は、改めてメールを送り直した。 【書き忘れていたけど、さっきのメールは削除しないように。絶対読んでね! 兵庫県警捜査一課 西田仁美】  これで良いのだろうか。少し不安だったが、このメッセージを付け加えることによって彼女はメールを捨てずに読むだろう。そう確信していた。  それから、仁美はビジネスホテルへと戻っていった。近くのコンビニでカップラーメンを買っていたが、それに手を付ける余裕は無かった。連日の疲れがどっと出たのである。メイクを落としたり、シャワーを浴びたりしないといけないのは分かっていたのだけれど、今の仁美にそれらの工程を行う体力は残されていなかった。ベッドへと倒れ込んだ仁美は、そのまま(いびき)をかいて爆睡した。
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