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女性は気だるい顔をしながら仁美から送られてきたメールを見ていた。短い髪に、白い肌。腕にはリストカットの痕がくっきりと残っている。乳房が張っていることから、辛うじて女性だという事が分かるのだけれど、その低い声と一人称で彼女が女性だということを判断する事は難しくなる。
「僕にこの事件を解決しろというのか。まったく、僕は兵庫県警とコネクションを持ってしまったから厄介事に巻き込まれるようになってしまった。まあ、子供の頃に友達が少なかった僕からしてみれば、今の状況は何だか夢みたいな話なんだけど」
兵庫県というのは本土に対して蓋をするように配置されている。当然、北部と南部では気候が違えば文化も違う。そして、実質的に栄えているのは県庁所在地である神戸を中心とした阪神間及び北摂に近い尼崎市と伊丹市だけである。そして、その女性は阪神間にある芦屋市という静かな街に住んでいる。芦屋というのは所謂ベッドタウンであるのだが、高級住宅街としても知られている。特に六麓荘周辺は「高嶺の花」として神戸っ子から憧れの場所として羨望されている。ただし、その女性が住んでいるのはそんな大袈裟な場所ではなく、芦屋川沿いのボロアパートである。
アパートの一室は女性の部屋とは思えないもので溢れていた。昔から憧れているhitomiのレトロなアルバムのポスターが貼られているところはまだ女子力が高いが、本棚に入っている京極夏彦の分厚いノベルスと鬼退治の漫画全巻で若干マイナスに針が振れ、そしてロボットアニメのプラモデルでマイナスに振り切る。ちなみに京極夏彦の小説はほぼ全作揃えているという強火担である。
女性はパソコンで仁美に返事を送信した。
【西田刑事、資料は一通り目を通した。それにしても、豊岡で殺人事件が頻繁に起きるなんて物騒な世の中になったな。確かに僕は豊岡っ子だけど、この状況を放っとくわけにはいかない。仕方ないけど、事件の解決に協力するよ。そうだ、ビデオチャットで話がしたい。このメールを読んだら、僕宛てにビデオチャットの招待状を送って欲しい。それじゃ 神無月絢奈】
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