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神無月絢奈。彼女は色々あって豊岡から芦屋に引っ越した。絢奈が豊岡に住んでいた頃に発生した「同級生連続失踪事件」では拉致監禁され、その時に一緒に監禁された友人のアドバイスを受けて芦屋への引っ越しを決意した。ただし、その友人は2月に発生した「首なし死体連続殺人事件」で最後の被害者となってしまった。しかも、その殺人事件の犯人は、絢奈の数少ない友人でなおかつ部活仲間というとても悲しい事件だった。
それから10ヶ月間は大した事件もなく、メンタルと仕事も安定していた。チャットアプリとユースタグラムで「芦屋に引っ越した」という旨を伝えた途端に現地に住んでいる友人と会う機会も増えてきた。ただし、その用事の殆どは「パソコンが壊れたからなんとかしてほしい」とか「スマホがバグったから対処方法を教えてほしい」とか、しょうもない用事が多かったのだけれど。
「間宮美和か。確か、中学生の時にクラスメイトだったな。スポーツは万能だったけど理科と数学が苦手だったから良くノートを貸していた記憶がある。まあ、天が二物を与えるのはピッチャーとバッターを同時にやり遂げる大谷翔平ぐらいだから仕方ないんだろうけど。……? そういえば、オリンピックや世界陸上で入賞していた間宮選手って美和ちゃんのことだったのかな? なんであの時思い出せなかったんだろうか。今更思い出しても無駄なのに」
仁美から送ってもらった資料を元に、絢奈はプロファイリングを始めた。手始めに間宮家と藤崎家の関係性について整理をした。そもそもの話、間宮亜紀と藤崎亮が婚約関係を結んでから一連の悲劇が発生した訳であって、そこから遡ると犯人は藤崎家の誰かであると絢奈は推測した。怪しいのは亮の弟である藤崎大輝、そして姉である藤崎真理子だろうか。しかし、両者に殺害の動機は見当たらない。ならば、本当に間宮姉妹は自殺をしてしまったのだろうか。それとも、2人共自殺に見せかけた他殺なのだろうか。あまりにも謎が多い事件なので、絢奈は「城崎一家蒸発事件」の資料にも目を通した。城崎一家蒸発事件の発端も円山川への入水自殺、そして錯乱の末による首吊り自殺だったので色々と共通点は多い。もしも、犯人の狙いが一家蒸発事件の再現だとしたら、次に狙われるのは恐らく父親か母親だろうか。それは拙い。そんな事を思っている時だった。仁美からビデオチャットの招待メールが入ってきた。
「絢奈ちゃん、見えるかな? アタシです。西田仁美です」
「もちろん、見えている。メールを読んでくれたんだな」
「読まなかったらビデオチャットなんてしませんよぉ」
「それにしても、その背景は趣味が悪いな」
「えー? そうなのかなぁ。好きな戦隊ヒーローの秘密基地なんですけど」
「まあ、そんな事はどうでもいい。一連の資料をプロファイリングしていて気づいたんですけど、犯人が一家蒸発事件の再現を狙っているとすれば、次に狙われるのは恐らく間宮賢治か間宮由香のどちらかです。僕は探偵じゃないから飽くまでも憶測に過ぎないんですけど……」
「そうそう。アタシもそう思っていました。確か、あの事件も姉が入水自殺を図ってから直ぐに妹が錯乱して首を括ったと聞きました。一家蒸発事件に関して、噂では『平家の落人の祟り』と言われているらしいんですけど、実際のところは兵庫県警でも封印事件扱いされているからなんとも言えません」
「なるほど。まあ、僕が分かる範囲でプロファイリングは行っていきます。でも、城崎一家蒸発事件の事は一旦棚に置いた方が良さそうですね」
「確かにそうかもしれませんね。この事件はアタシの方で捜査を進めますから、絢奈ちゃんは引き続きプロファイリングをお願いします」
「分かっている。それで浮かび上がることもあるかもしれないからな」
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