Phase 02 疑惑の死体

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 色々考えても仕方がないので、捜査会議が終わった後、仁美は賢治の殺害現場である宮島地区での聞き込み調査を行うことにした。  宮島地区はファスト風土化が著しい豊岡バイパスの東側にある。畑と住宅が点々と並んでおり、畑の近くには農業用の水路が通っている。恐らく、この水を使って野菜や米を育てているのだろう。宮島地区というのは、約20年前に発生した台風によって壊滅状態になった。豊岡という街自体、元々海抜が低い場所にあるので仕方がないのだが、その台風で決壊した円山川の濁流が家や畑を飲み込み、そして押し流した。それから、造成工事によって堤防が出来上がり、現在では豊岡でも有数の住宅街として成り立っている。 「こんにちは。兵庫県警捜査一課の西田仁美と申します。現在、この周辺で『人間が発火する現象』を目撃した人がいないかどうかを聞き込み調査しているのですが……」 「うーん。事件は知っているけど、人間が燃え上がった様子は見ていませんね。でも、あの夜はなんだかガソリン臭かったのは覚えています。この時期は灯油ストーブを使う家が多いので、ガソリンと灯油の匂いの区別は付くんです。仮にガソリンをストーブに入れてしまったらその時点で爆発してしまいますからね」 「なるほど。矢張り犯人はガソリンを使って間宮賢治さんを燃やしたと」 「そうなりますね。刑事さんの力になれなくて申し訳ないんですけど、私の証言が事件解決の糸口になれば幸いです」 「ありがとうございます。では、私はこれで失礼します」  それから仁美は色々な家に対して聞き込み調査を行ったが、矢張り脈なしだった。 数時間後。冬の夕暮れは早いと言うが、辺りはすっかり暗くなってしまった。これが最後の聞き込み調査になるかもしれない。そう思いながら2階建てのアパートへと向かった仁美は、適当な部屋のチャイムを押した。 「こんばんは。兵庫県警捜査一課の西田仁美と申し……」 「あっ、刑事さん! ちょうどあなたに話したいことがあったんですよ!」 「本当ですか!?」 「本当です! あぁ、申し遅れました。僕、中村彰と言います。この辺に住んでいて、ユースタグラマーをやっています」 「ユースタグラマー? ということは、何かしらの証拠映像を持っているということですか!?」 「はい! 僕、見ちゃったんですよ! 人間が燃えるところ!」  中村彰と名乗る男性の言葉に、仁美の心臓の鼓動が高鳴った。 「それで、どんな感じで燃えていたんですか?」 「なんというか、人間がそのまま燃えていたんです。よくオカルトとかであるじゃないですか? 発火人間。それですよ、それ。もしかしたら燃えていた人間は間宮家の事件の関係者かもしれないから、ユースタグラムへのアップロードへは自粛していたんですけど、結果的にそれで正解でしたね。あっ、これ映像です」  彰は、仁美にスマホの映像を見せた。確かに、円山川の土手に人影のようなものが見える。人影は炎に包まれていて、ゆらゆらと燃えていた。 「これは貴重な資料ですね。私のスマホに転送してもらえないでしょうか?」 「良いですよ! 警察の人の役に立つんだったらいくらでも情報提供はします!」  彰は自分のスマホに入っていた映像を仁美のスマホに転送した。 「いやぁ、人助けって良いっすね!」 「そ、そうですね……。まあ、とにかくこの映像は証拠として兵庫県警に提出いたします。ご協力ありがとうございました」  豊岡北署に戻った仁美は、林部警部に例の映像を証拠として提出した。 「西田刑事、これは大手柄だ。映像を見る限り、燃えているのは間宮賢治で間違いない」 「そうですか。それで、被疑者の絞り込みは出来るんでしょうか」 「残念だが、この映像だけでは絞り込みは出来ない。引き続き、間宮家と藤崎家の両者の関係者を被疑者とする」 「分かりました」
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