Phase 02 疑惑の死体

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 意外にも、事件現場は間宮家の畑だった。間宮家は、裏に畑があり、そこで野菜を育てている。当然、冬は野菜を育てていないので、畑はただの荒れ地と言っても過言ではない。そして、間宮由香は首のない遺体として畑の中に埋められていた。 「鶴丸刑事、お疲れ様です。本当にこの畑が事件現場なんですか?」 「そうなりますね。しかし、由香さんを殺害してから畑の中に埋めたという可能性も考えられます」 「なるほど。それにしても、どうして首がない状態で見つかったんでしょうか?」 「それは僕にも分かりません。でも、犯人の狙いが由香さんの首だとしたら、何か儀式を行おうとしていたとか……?」 「儀式? そういえば、私の友人からこんなメールが来ていました」 「友人って、例の『絢奈ちゃん』ですか?」 「そうですね。彼女によると、『藤崎家はとある宗教を復興させようとしているんじゃないか』とのことです。まあ、飽くまでも憶測の域は出ませんが……」 「首無し死体と宗教……そういえば、学生時代に京極夏彦の小説で読んだな」 「あっ、それ私も知っています。『狂骨の夢』ですよね」 「流石京極夏彦オタク、話が早い。そこで犯人は『真言立川流』という密教を復興させようとしていましたね。……ん? 真言立川流??? まさか……」 「あっ」  仁美と鶴丸刑事は、ほぼ同じタイミングで、同じ答えを見つけ出そうとしていた。 「もしかして、藤崎家は真言立川流の末裔(まつえい)なんじゃ……」 「そう! それです! となると、なぜ由香さんの首が無くなったのかも合点が行きます」  一連の事件において同じ答えを見つけ出した2人の元に、後輩刑事からある連絡が入ってきた。 「鶴丸刑事、西田刑事、ちょっと井戸の方まで来てください。2人にとっては少々刺激が強いかもしれませんが……」  2人は、急いで畑の井戸の方へと向かう。 「ここです。この井戸の中に、普通ではあり得ないモノが入っていたんです」 「まあ、大体の答えは分かっているんですけどね」 「私も分かっています」  後輩刑事が井戸の蓋を開ける。そこに入っていたのは、間宮由香だったモノの首というか、顔だった。顔は、驚いた表情をして固まっていた。井戸の底をじっと見つめている時だった。カメラのフラッシュの音が一斉に鳴り響いた。 「マスコミですか!? 聞いてないですけど」 「僕も聞いていません。一体どこからリークしたんでしょうか」 「あの……ネット上で面白がって考察していた人の中に有名なユースタグラマーがいたみたいで……」 「それって、もしかして中村彰?」 「あぁ! それです! オカルト系ユースタグラマーのAKIRAさんです」 「そういえば私、聞き込み調査中に彰さんから賢治さんが燃えている証拠動画を受け取ったんです。もしかしたら間宮家の事件と関係あるかもしれないからアップロードを自粛していたとかどうとか聞いたんですけど……」 「西田刑事、『嘘も方便』という言葉は知っていますよね。この動画を見てください」  鶴丸刑事が、仁美にスマホの動画を見せた。 「あーっ! これ、警察に提出した動画!」 「そうです。この動画がユースタグラムとティップトップを経由してネット上の色んなところに拡散されて、豊岡という街が大パニックになっているんです。ほら、そうこうしている間にも野次馬が……」 「わわわっ。神戸でもここまでの野次馬は見たことがないんですけど」 「そうよ。野次馬は一刻も早く消えてもらうべきよ」  事件現場で蝗のように群がる野次馬。仁美と鶴丸刑事にとって、それは迷惑極まりないモノでもあった。 「すみません! 兵庫県警捜査一課ですけど、ここは立入禁止です!」 「それぐらい分かってんだよ。写真撮らせろよ!」 「それもダメです!」 「あんだとぉ」  モラルのない男性に投げ飛ばされて、仁美の華奢(きゃしゃ)な体が畑の上へと落ちた。幸いにも、畑は土で出来ているので怪我は無かったのだが、矢張り顔に泥が付いてしまった。 「もう! 酷い! 私の一張羅が汚れてしまったじゃないの!」 「まあ、西田刑事、落ち着いて下さい。それよりも、ここは撮影禁止です。野次馬の皆さんは一刻も早く立ち去って下さい」 「はーい……」  野次馬が去った後、仁美と鶴丸刑事は改めて現場検証を行うことにした。 「それにしても、どうして犯人はわざわざ井戸の中に首を捨てたんでしょう」 「西田刑事、捨てたとは限らないんじゃないんですか? 例えば、骨になる状態まで井戸の中で放置していたとか」 「なるほど。そういえば。真言立川流の本尊は髑髏でしたね。もしかしたら、髑髏本尊を作るべく首を斬り落としたと」 「確かに、その線はあり得ますね。とにかく、一連の事件の被疑者は藤崎家の誰かでしょうね。一度取り調べを行いましょう」  こうして、藤崎家に対する取り調べが行われることになった。しかし、それがさらなる事件の連鎖になろうとは、仁美も鶴丸刑事もこの時は思っていなかった。
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