Phase 03 藤崎家

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Phase 03 藤崎家

 藤崎亮の殺害現場のテーブルの上に、焼きたてのクッキーと淹れたてのコーヒーが置かれていた。恐らく、どちらかに毒が塗られていたのだろう。仁美と鶴丸刑事はそう判断した。 「それにしても、重要参考人として目をつけていた亮さんが殺害されてしまうなんて、事件は振り出しに戻ってしまいましたね」 「西田刑事、そこまで落ち込む必要はありません。でも、一連の殺人事件の犯人が藤崎家の誰かということは明確でしょう。そうそう、千尋さんにお聞きしますが、このコーヒーとクッキーはあなたが持ってきたものなんでしょうか?」 「はい。そうですけど……コーヒーを淹れたのは私ですが、クッキーを作ったのは私じゃなくて娘の真理子です」  藤崎真理子。彼女は藤崎亮の妹であり、藤崎大輝の姉である。年齢は28歳で、地元の銀行で銀行員として働いていた。性格はとても明るく、藤崎家の中でも元気印として家族を切り盛りしていた。毒殺の証拠品と雖も、彼女が作ったクッキーの見た目はプロが作ったような出来栄えだった。 「このクッキーを作ったのは、真理子さんですか?」 「確かに、このクッキーを作ったのは紛れもなく私です。でも、毒は仕込んでいません」 「ですよね。それにしてもこのクッキー、美味しそうですね。真理子さんはパティシエの資格とかを持っていたんですか?」 「お菓子作りは好きだったんですけど、パティシエの資格は持っていません。私は元々神戸でパティシエとして働くつもりでした。でも、親に反対されて……」 「そうだったんですか。確かに藤崎家は厳しそうですもんね」 「それで、結局地元の銀行で銀行員として働いているんです。でも、今でもパティシエの夢は諦めていません」 「まあ、夢はいくらでも持つべきですもんね。私だって、小説家を夢見ていたつもりなのになぜか刑事になっていますし」 「西田さんって、結構面白い人ですね」 「そうですか? 私はただ単にあなたに対して取り調べを行っているだけですが……」  真理子は、仁美に対して魔性とも言える笑みを浮かべていた。もしかしたら、彼女が亮殺しの犯人かもしれない。そう思っていたのだけれど、彼女に対する明確な証拠が無さすぎる。そして、仁美はある質問をした。 「真理子さんにお聞きしますが、あなたにとって亮さんってどういう人物だったんですか?」 「とても優しいお兄ちゃんでした。私、昔から体が弱くて学校も休みがちだったんですけど、私が学校を休む度に色々と勉強を教えてくれました」 「なるほど。それなら真理子さんに亮さんを殺す理由は見当たりませんね」 「西田さん、もしかして私の事を疑っているんですか?」 「そりゃ、刑事は誰かに疑いの目を向けるのが仕事ですからね。こればかりは仕方ありません」 「それなら、私の潔白も証明できますよね?」 「それはどうでしょうか。現時点で私の口からはなんとも言えません……」
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