Phase 03 藤崎家

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 その夜の絢奈のメンタルは最悪だった。芦屋の天気が雨模様だったのもあるが、バスルームに入るとリストカットへの衝動に駆られてしまったからである。鏡の前で裸になって自分の躰を見渡すと、突然過去の記憶がフラッシュバックして、心臓の鼓動が早くなった。絢奈は、大量の精神安定剤を服用して自分を落ち着かせようとするのだけれど、矢張り精神安定剤だけでは落ち着かない。そして、無意識のうちに右手にカッターナイフを持って、自分の腕を切りつけた。傷口からどくどくと流れ出る赤い血は、絢奈の白い肌というキャンバスを汚していく。 「はぁ……はぁ……」  荒い息遣いの中で、絢奈の意識が遠のく。心の声が、絢奈の頭の中に幻聴として響き渡る。 「僕ハナゼ生キテイルノダロウカ。ソレガワカラナイ。脈打ツ心臓ガ、僕ニ対シテ生キテイルトイウコトヲ伝エテイル。僕ナンテ生キル価値ハ無イ。コノママ死ンデシマエバイイノニ」  そして、絢奈はある幻覚を見た後で、裸のままその場に倒れ込んだ。床には、赤黒い血溜まりが出来ていた。
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