Phase 03 藤崎家

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 仁美と鶴丸刑事は、大広間の扉の鍵を解錠した。正直、仁美の心臓の鼓動は高鳴っていた。なんだか厭な予感がしたからである。一呼吸置いた後で、2人は扉を開けた。このままでは何も見えないので、仁美は壁にあったスイッチで照明を点けることにした。部屋が明るくなった瞬間、2人は絶句した。 「何よ、これ……」 「こ、これは……」  壁に、「狐を乗せた女神」が描かれた曼荼羅が飾られている。それだけなら、よくある古くからの仏間なのかもしれない。しかし、その部屋が異様なオーラを放っていたのは、曼荼羅の下に置かれていた「モノ」たちである。その「モノ」たちは、明らかに人間の頭蓋骨だったのだが、頭蓋骨には金箔が貼られていた。 「矢張り、これは髑髏本尊……」 「そうですね。私もこの部屋を見て『疑惑』が『確信』に変わりました。矢っ張り、藤崎家は真言立川流、もとい『《彼の法》集団』の末裔です」 「西田刑事、『《彼の法》集団』って何ですか?」 「ああ、鶴丸刑事に説明を忘れていました。最近の研究結果で、『真言立川流』はむしろそういう邪法を批判していた側だったらしく、現在では『真言立川流』は『《彼の法》集団』という名称で呼ばれる事が多いんです。実際のところは善く分かっていないんですけど……」 「ということは、この曼荼羅は……」 「はい。『荼枳尼天(だきにてん)』という狐に乗った女神です。彼女は『《彼の法》集団』の本尊であったと言われています」 「なるほど。しかし、女神を本尊とする密教も珍しいですね。普通なら男神を本尊とする密教が多いんですけど」 「荼枳尼天は所謂『夜叉(やしゃ)』です。約半年という時間をかけて人間の頭から脚までを食い尽くすという恐ろしい怪物でもあるんです」 「恐ろしい……。それにしても、どうしてそういうのに詳しいんだ」 「友人の入れ知恵ですよ。入れ知恵。まあ、京極夏彦の小説にそういうエピソードがあったのもあるんですけど」  そう言いながら、仁美は部屋の写真をスマホで撮影した。そして、チャットアプリで絢奈のスマホに送信した。 「これが明確な証拠として絢奈さんに伝わると良いんですけど……」 「本当に伝わるのかな」 「まあ、彼女なら大丈夫ですよ。私、絢奈さんのことを信頼していますし」  こうして、仁美と鶴丸刑事は何事も無かったかのように部屋を後にした。実際、何事も無かったかと言えばそうでもなく、むしろ情報量が多かったのだけれど。
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