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昏睡状態から先に目を覚ましたのは鶴丸刑事の方だった。矢張り、階段から転がり落ちた時に頭を強く打ったからなのか、仁美は依然昏睡状態だった。
「うーん、僕がなんとかしなきゃいけないのか。しかし、手足を縛られた状態じゃ何も出来ないな。兵庫県警に応援を要請しようにも、僕の無線とスマホはパトカーの中に置きっぱなしだ。これは手詰まりだろうか。せめて仁美ちゃ……じゃなくて西田刑事が意識を取り戻さないと、どうにもならないな」
鶴丸刑事は周りを見渡して、拘束具を外せる道具がないかを探していた。2人はロープのようなもので手足を縛られていて、鶴丸刑事はナイフのようなものさえあれば切り落とす事が出来そうだと思っていたのだ。しかし、鶴丸刑事の期待は裏切りへと変わってしまう。
「ダメだ……この部屋には何もない。せめて尖ったものぐらいあれば……」
2人が監禁された部屋には、ナイフはおろか尖ったものすら無かった。「正直言って、このまま死んだ方がマシだ」と鶴丸刑事は思っていた。その時だった、扉が開く音がした。満月をバックに、黒いライダースジャケットを着た華奢な女性が立っている。
「き、君は……」
「今はそんな事関係ない。それに、僕は君たちの味方だ。安心してほしい」
「君、今『君たち』って言ったよね??? 『君たち』って……」
「そう。そこで縛られている兵庫県警の2人の事だ」
「それより、君の名前を教えて欲しい」
「僕は、神無月絢奈だ」
「僕!? どう見ても女性ですけど……」
「あぁ、どうも僕は『私』という一人称を嫌っているみたいで、こっちの方が馴染む。でも、生物学的上ではれっきとした女性だ」
「確かに、胸に膨らみがありますもんね」
「セクハラ発言はやめてくれ」
「す、すまん。とにかく、僕と仁美ちゃんを助けに来てくれたのは本当なのかね」
「本当だ。今、そのロープを切り落とすから待ってくれ」
こうして、絢奈は仁美と鶴丸刑事を縛っていた手足のロープを切り落とした。
「絢奈さん、ありがとう。仁美ちゃんが目を醒まさないのが気になるけど、これから僕たちはどうすれば良いんだ?」
「とりあえず、この近くのファミレスへと向かう。詳しい話はそこで。仁美さんもそのうち目を醒ますと思う」
「でも、ここからどうやって脱出するんですか?」
「ああ、僕はこの洋館で隠し通路を見つけた。そこから脱出する」
鶴丸刑事は仁美を背負い、そして絢奈に案内されるように藤崎家から逃げ出すことにした。
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