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スマホのアラームが鳴り響いている。時刻は6時30分を指していた。絢奈は、自分の胸に手を当てて本当に心臓が脈を打っているかどうかを確かめた。胸に手を当てると。心臓の鼓動が早く脈を打っていた。あんな夢を見たら当然だろうか。そして、冬だというのに寝汗はびっしょりとかいていた。
「……なんだ、夢か」
「絢奈ちゃん、どうしたんですか?」
「ちょっと、厭な夢を見てね」
「まあ、そんな日もありますよ。私なんて見知らぬ人に犯される夢なんてしょっちゅう見ますから」
「ですよね」
「あっ、鶴丸刑事も起きましたか。3人同時に同じ時間に目を醒ますなんて、体内時計がきっちりとしていますね」
6時30分きっかりに目を醒ました3人は、リビングへと向かった。リビングでは、麻衣が朝食を食べていた。
「あっ、絢奈。こっちに来ていたのね」
「お姉ちゃん、ちょっと色々あって」
「まさか、例の事件に首突っ込んでないよね? いくらアンタが探偵好きと雖も、そういうのはあんまり趣味が良くないと思うのよね」
「そうかな。まあ、そうだよね」
「それにしても、刑事さんまでアタシの家に来るとは思わなかったわ。そうだ、アタシのフレンチトースト食べる?」
「美味しそう! 頂こうかしら」
「僕も頂こうかな」
「僕は砂糖控えめで頼む」
「はいはい。今焼くから待っててね」
新垣麻衣。旧姓神無月麻衣。彼女は絢奈の唯一の血縁関係者である。大学からの就職の関係で名古屋に住んでいたのだが、数年前に「地元の理系学生の育成に貢献したい」として豊岡に帰還。教員免許を持っていたのでそのまま地元の中学校で教師として働いている。もちろん、担当教科は理科である。ちなみに、夫である新垣博己は地元の市場で商社マンとして働いている。故に、朝は早い。
絢奈の存在に気づいた博己が、声をかける。
「あっ、絢奈ちゃんじゃないか! 元気だった?」
「博己さん、久しぶりです。僕は元気です」
本当は前日にリストカットしていたのだけれど、絢奈が博己の前で嘘を吐く訳にはいかなかった。そうこうしているうちに、フレンチトーストが焼き上がった。
「ほれっ、焼きたてのフレンチトーストだっ。もちろん、絢奈の分は砂糖控えめだぞっ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「いつもごめん。僕、甘いものが苦手で……」
「いいのよ。絢奈ちゃんが甘いもの苦手なのはアタシが一番知ってるから」
フレンチトーストを頬張りながら、3人はこれからの事を考えていた。
「とりあえず、先に豊岡北警察署でレポートを書いてから、間宮家へ向かおうと思っている。仁美ちゃん、絢奈さん、それで良いかな?」
「もちろんだ」
「もちろんです。じゃないと、アタシ、林部警部からお叱り受けちゃいますし」
「まあ、真言立川流……もとい、『彼の法』集団についての明確な証拠は事件解決への糸口になり得ますからね。あっ、絢奈さんは家で待っていてくださいね。これは飽くまでも僕たちの仕事ですから」
「分かっている。麻衣と色々話もしたかったし、丁度いい」
「まあ、2人の時間を楽しんでちょうだい」
こうして、仁美と鶴丸刑事は豊岡北警察署へと戻っていった。
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