Phase 04 絢奈と仁美と鶴丸刑事の長い1日

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 絢奈は、2人の刑事を待っている間に麻衣と話をしていた。中学校は冬休みなので、麻衣は3学期の教材を作っていた。 「へぇ、芦屋でプログラマーやってんの」 「そうだけど、それの何が悪いんだ」 「まあ、神戸じゃなくて芦屋に住んでんのがアンタらしいなって思って」 「僕は神戸みたいに騒がしいところがあまり好きじゃないからな。それならまだ芦屋や西宮の方がマシだ」 「西宮とは連絡取ってんの?」 「まあ、それなりに」  西宮には新垣家側の親戚がいる。元々NTTで通信技師として働いていたので、手先はかなり器用である。庭の手入れから電気工事まで、こなせられるものは何でもこなす。絢奈も、何度か組み立て式の家具の組み立ての手伝いをするために西宮から親戚に来てもらっていた。ちなみに、好物はいかなごの釘煮である。  2人だけの話は続く。話は段々と赤裸々な方へ向かっていった。 「それで、恋人とかいんの?」 「いる訳ないじゃん」 「まあ、そうだよね。アンタ、顔は良いけど性格に難ありだからね」 「褒めてるんだかディスってるんだか分かんないな」 「一応褒めてるつもりだけど?」 「そう。だったら良いんだけど」 「そろそろ刑事さんが戻ってくる頃合いだと思うけど、本当にアンタはあの事件を解決させるつもりなの?」 「もうここまで来てしまった。今更引き返せない」 「だよね。まあ、幸運を祈ってるよ。そうだ、これ、お守り」  絢奈は、麻衣から十字架のネックレスを手渡された。 「あっ、これ、芦屋に持っていくのを忘れていたネックレスだ。よく見つけたな」 「この間、掃除したら出てきた。アタシが貰ったらアンタに怒られそうだったし、持ち主の元に返しておくよ」 「ありがと」  改めて、絢奈は麻衣から手渡された十字架のネックレスを身に着けた。 「矢っ張り、アンタってそういうファッションが似合うよ」 「お世辞じゃないよな」 「当然。似合ってるからホントのこと言ってんじゃないの。頑張ってね」  絢奈と麻衣は、互いの拳をぶつけた。所謂グータッチである。 「ほら、パトカーが来てるわよ。いってらっしゃい」 「お姉ちゃん、行ってきます」  こうして、絢奈は「引き返せない場所」へと向かっていった。 「やれやれ……まったく、世話の焼ける妹だわ。でも、絢奈がいるからアタシも生きていけるんだろうな。さて、教材作りを再開するか」
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