17人が本棚に入れています
本棚に追加
藤崎家があるのは、古くからの屋敷が並んでいる山王山と呼ばれる小さな山の麓だった。春は桜の名所で、子供たちの憩いの場でもある。当然、冬は枯れ木が立ち並ぶだけの場所なのだけれど。山王山の頂上には合格の神様である日吉神社があり、受験シーズンや就活シーズンには絵馬を奉納する人で絶えない。
藤崎家には、規制線が貼られていた。恐らく野次馬対策だろう。門を潜った3人は、離れの洋館へと向かった。相変わらず、絢奈の目にとってそれは「異物」に見えた。
「ここですね」
「私、ここで監禁されていたんですか?」
「そうだ。仁美さんと鶴丸刑事はここで監禁されていた」
「それにしても、昼間だというのに幽霊が出そうな洋館ですね……」
「まあ、殆ど廃墟みたいなモノだから当然だ」
「それにしても、どうして絢奈さんはこの洋館を知っていたんですか?」
「一連の事件の犯人と、よくこの洋館で遊んでいたんだ」
「それは一体誰なんだ」
「今はまだ、それを話す時ではない」
「えーっ、ケチ」
「とにかく、僕の見立てが正しければ、光雄さんと幸子さんの首はこの洋館の中にある」
「今、なんて言いました?」
「だから、この洋館の中に2人の首があるんだ」
絢奈の一言で、2人の心臓の鼓動は高鳴った。それが本当だとしたら、矢張り藤崎家は淫祠邪教の末裔になる。そんな事が本当にあったら、事件はとんでもないことになる。そう思いつつ、3人は洋館の中へと入っていった。
昼だというのに、洋館の中は薄暗い。しかし、絢奈の表情には余裕の笑みが浮かんでいた。
「この部屋って、僕たちが監禁されていた場所ですね」
「そうだ。そして、2人に伝えておきたいことがある」
「一体何でしょうか」
「藤崎家は、淫祠邪教の末裔にしてからくり職人の末裔でもあったんだ。藤崎家のご先祖様である藤崎吉右衛門は、小倉藩で田中久重に弟子入りして、からくり作りの極意を教わったんだ」
「田中久重って、あの田中久重ですか!? からくり儀右衛門の」
「そうそう。『幕末のエジソン』と言えば分かりやすいかな?」
「それにしても、絢奈さんって何でも知っているんですね」
「まあ、僕はそのせいで学校でも浮きこぼれていたんだけど」
「それで、この部屋にはどんな秘密が隠れているんでしょうか」
「壁をよく見てほしい。1つだけ色が変わっているだろう。この壁を押すとだな」
絢奈は、1つだけ色が違う壁を押した。地鳴りのようなものが、辺りに鳴り響く。
「じ、地震!?」
「大丈夫だ。地震じゃない」
「あっ、隠し部屋!」
「仁美さん、流石ですね。僕の見解が正しければ、この隠し部屋に……」
「絢奈さん、もう言うことは無いですね」
「そうだ。この頭蓋骨は光雄さんと幸子さんのモノだ。恐らく、犯人は首を斬り落とした後で何らかの方法で火に包み、骨として保管していたんだ」
「その通りです」
男性とも女性とも取れる中性的な声が、洋館に鳴り響いた。その人物は、銀色の長い髪を靡かせながら、3人に近づいてきた。
「あ、あなたは誰よ?」
「あっ、この人が僕たちを気絶させたんです」
「本当に?」
「本当です。西田刑事は階段から転げ落ちて気を失っていましたが……」
「そんな事はどうでもいい。もう、いい加減にしないか、大輝くん」
「えっ」
「一連の事件の犯人は、大輝くん。いや、藤崎大輝だ」
「その通りです。流石ですね、神無月さん」
藤崎大輝という銀髪の男性は、絢奈の答えに対して魔性の笑みを浮かべていた。
最初のコメントを投稿しよう!