Phase 04 絢奈と仁美と鶴丸刑事の長い1日

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 藤崎家があるのは、古くからの屋敷が並んでいる山王山(さんのうさん)と呼ばれる小さな山の麓だった。春は桜の名所で、子供たちの憩いの場でもある。当然、冬は枯れ木が立ち並ぶだけの場所なのだけれど。山王山の頂上には合格の神様である日吉神社があり、受験シーズンや就活シーズンには絵馬を奉納する人で絶えない。  藤崎家には、規制線が貼られていた。恐らく野次馬対策だろう。門を潜った3人は、離れの洋館へと向かった。相変わらず、絢奈の目にとってそれは「異物」に見えた。 「ここですね」 「私、ここで監禁されていたんですか?」 「そうだ。仁美さんと鶴丸刑事はここで監禁されていた」 「それにしても、昼間だというのに幽霊が出そうな洋館ですね……」 「まあ、殆ど廃墟みたいなモノだから当然だ」 「それにしても、どうして絢奈さんはこの洋館を知っていたんですか?」 「一連の事件の犯人と、よくこの洋館で遊んでいたんだ」 「それは一体誰なんだ」 「今はまだ、それを話す時ではない」 「えーっ、ケチ」 「とにかく、僕の見立てが正しければ、光雄さんと幸子さんの首はこの洋館の中にある」 「今、なんて言いました?」 「だから、この洋館の中に2人の首があるんだ」  絢奈の一言で、2人の心臓の鼓動は高鳴った。それが本当だとしたら、矢張り藤崎家は淫祠邪教(いんしじゃきょう)の末裔になる。そんな事が本当にあったら、事件はとんでもないことになる。そう思いつつ、3人は洋館の中へと入っていった。  昼だというのに、洋館の中は薄暗い。しかし、絢奈の表情には余裕の笑みが浮かんでいた。 「この部屋って、僕たちが監禁されていた場所ですね」 「そうだ。そして、2人に伝えておきたいことがある」 「一体何でしょうか」 「藤崎家は、淫祠邪教の末裔にしてからくり職人の末裔でもあったんだ。藤崎家のご先祖様である藤崎吉右衛門は、小倉藩で田中久重に弟子入りして、からくり作りの極意を教わったんだ」 「田中久重って、あの田中久重ですか!? からくり儀右衛門の」 「そうそう。『幕末のエジソン』と言えば分かりやすいかな?」 「それにしても、絢奈さんって何でも知っているんですね」 「まあ、僕はそのせいで学校でも浮きこぼれていたんだけど」 「それで、この部屋にはどんな秘密が隠れているんでしょうか」 「壁をよく見てほしい。1つだけ色が変わっているだろう。この壁を押すとだな」  絢奈は、1つだけ色が違う壁を押した。地鳴りのようなものが、辺りに鳴り響く。 「じ、地震!?」 「大丈夫だ。地震じゃない」 「あっ、隠し部屋!」 「仁美さん、流石ですね。僕の見解が正しければ、この隠し部屋に……」 「絢奈さん、もう言うことは無いですね」 「そうだ。この頭蓋骨は光雄さんと幸子さんのモノだ。恐らく、犯人は首を斬り落とした後で何らかの方法で火に包み、骨として保管していたんだ」 「その通りです」  男性とも女性とも取れる中性的な声が、洋館に鳴り響いた。その人物は、銀色の長い髪を靡かせながら、3人に近づいてきた。 「あ、あなたは誰よ?」 「あっ、この人が僕たちを気絶させたんです」 「本当に?」 「本当です。西田刑事は階段から転げ落ちて気を失っていましたが……」 「そんな事はどうでもいい。もう、いい加減にしないか、大輝くん」 「えっ」 「一連の事件の犯人は、大輝くん。いや、藤崎大輝だ」 「その通りです。流石ですね、神無月さん」  藤崎大輝という銀髪の男性は、絢奈の答えに対して魔性の笑みを浮かべていた。
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