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三途の川が、流れている。絢奈は、死んだのだ。これから、奪衣婆に服を奪われて、死後の世界へと渡るのだろう。
「いくら奪衣婆と雖も、このライダースジャケットは高かったからな。なんとか奪われる訳にはいかない」
「それはどうかしら」
奪衣婆には、見覚えのある女性がいた。
「さ、沙織ちゃん???」
西澤沙織。絢奈の最大にして唯一と言ってもいい親友である。絢奈と沙織は色んなところで趣味が合うので、互いの事を「もう一人の自分」として見ていた。ただし、沙織は陽キャで絢奈は陰キャなのだけれど。どうやら「同級生連続失踪事件」で殺害された後、死後の世界を彷徨っていたようだ。
「それにしても、どうして死んじゃったの?」
「まあ、事件に巻き込まれて」
「アヤナン、いっつも事件に巻き込まれてるなぁ。どっかの見た目は子供で頭脳は大人の探偵じゃないんだから」
「まあ、事件に巻き込まれては殺されかけて生き返ってるんだけど、流石に今回はダメだ」
「それはどうかなぁ。アヤナン、結構しぶといところあるじゃん」
「まあ、リスカをしても三途の川には投げ飛ばされているからな。結局意識が戻って元の世界に戻るんだけど」
「そうね。自分の胸に手を当ててみなさいよ」
「どういう事だ」
「騙されたと思って」
絢奈は、自分の胸に手を当ててみた。僅かながら、心臓が脈を打っている。
「まだ、僕は死んでいないのか」
「そういうことみたいね。アヤナンはまだ、三途の川を渡る資格が無いみたい。まあ、もうちょっとだけ生きてみたら良いんじゃないの?」
「そうだな。沙織ちゃん、ごめん」
「謝らなくても良いのよ。ほら、病室のベッドの上でみんなが待っているわ」
「じゃあ、僕はこれで」
――それから、絢奈は三途の川から去っていった。
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