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絢奈が退院したのは、緊急搬送されてから2週間ぐらい後だった。仁美は軽傷だったので1週間程度で退院出来たのだが、絢奈は拳銃で撃たれたということもあってそれなりに時間がかかってしまった。当然、新垣家という名の実家での療養も余儀なくされた。
療養から1週間後、絢奈は芦屋に帰ることにした。
「もう、大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ。お姉ちゃん、心配かけてすまなかった」
「ううん。絢奈はそういう子だって、アタシが一番知ってっから」
そう言いながら、麻衣は絢奈を撫でる。
「くすぐったいな。僕はもう30歳を過ぎている。今更撫でられてもただのセクハラ行為だ」
「まあまあそう言わずに。いくらでも撫でてやるっ」
「いい加減にしろ」
「はいはい。分かってます。まあ、それはともかく、暫くこっちには帰ってこないのかしら?」
「一応、お盆に戻ってくるつもりだ」
「じゃあ、それまでしばしお別れだね」
「寂しくないの?」
「大丈夫、ヒロくんがいるから。アンタも早く結婚相手見つけなさい」
「うるせぇ!」
芦屋に帰る前に、絢奈は「間宮家一家虐殺事件」の現場へと向かった。事件現場には、花が手向けられており、絢奈も死者を弔う花を用意して、そして手向けた。
「こんな普通の家でも、殺人事件って起きるんだな。僕はそういう事をあまり考えたくないけど、今更起きてしまったものは仕方ない。じゃあ、どうすれば起きないのかを考えなければいけないんだ」
そう思いながら、絢奈は事件現場を見回す。当たり前だけど、現場には規制線が張られているので、一般人である絢奈が入れる場所は限られている。一通り見回した所で、絢奈は仁美と鶴丸刑事の影を見つけた。
「あっ、仁美さんと龍巳さん」
「おっ、絢奈ちゃんか。怪我はどうだい?」
「まあ、それなりに」
「それは良かった」
「絢奈さんも、事件現場に来たんですか?」
「そうだ。少し、不自然に思ったことがあったから」
「不自然なこと?」
「この事件、表向きでは解決したことになっているけど、本当はまだ解決していないんだ。僕が気になったのは、『なぜ間宮家は藤崎家を取り入れようとしたのか』ということだ。『城崎一家蒸発事件』では、確か『ゴリンの祟り』が原因ということにされていたけど、『ゴリン』って、要は『五輪塔』のことだと思うんだ」
「あっ、言われてみればそうかも知れないですね。五輪塔に死者を祀らなかったから、その一家は呪われたと」
「それで、間宮家の庭に何かそういう類のモノがないかを調べに来たんだ」
「なるほど。そういえば、井戸の近くにこんなモノがありました。こっちに来てください」
「いいんですか? 僕、一般人ですよ?」
「事件の解決に協力したんだ。絢奈ちゃんは名誉一般人だよ」
「そうですか……」
鶴丸刑事は、絢奈を庭の「ある場所」へと案内した。そこには、何か社のようなものが祀ってあった。しかし、社には日本の神社ではあり得ないような「違和感」があった。
「これ、何か見覚えが無いかな」
「そういえば……この手の社って、イスラエルのダビデと関係があるとかないとか……」
仁美が合流して、そのまま話を始めた。
「あっ、三本柱の社ですね。ほら、京都にもそういう神社があるじゃないですか。太秦とか」
「太秦? ああ、秦氏か」
「秦氏はダビデと関係があったという説が濃厚です。ほら、三角形をぐるりと回転させると……」
「あーーーーーーーーーーーーーっ!」
「龍巳さん、驚きすぎ。それに、このネタは京極夏彦ファンにとっても舞城王太郎ファンにとっても常識だ」
三角形をぐるりと回転させて重ねると何が出てくるのか。それはもう言うまでもない。所謂「ダビデの星」である。つまり、間宮家は豊岡に流れ着いた秦氏の子孫で、真言立川流、もとい「彼の法」集団の末裔である藤崎家はそれを壊滅させるために間宮亜紀に対して藤崎亮という因子を送り込んだ。しかし、亜紀は藤崎家の目論みを分かっていた。だから危険が迫る前に自らの命を絶った。今となったら、そういう判断でしか物事を解決出来ないのだ。結局の所、一連の事件で豊岡における間宮家自体は絶滅してしまったが、もしかしたら他の場所に間宮家の関係者がいるかもしれない。そう思った絢奈は、芦屋へ帰る道すがら、とある場所へと向かうことにした。
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