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「こういうのは、養父や朝来に多いと言われているな。とりあえず、養父で聞き込みを行おう」
絢奈は、養父市役所で「間宮」という名字の住民がいないか調べることにした。
「えーっと、間宮さん……いっぱいいるな。できれば9号線の近くがいいや。よし、ここに行こう」
絢奈が向かったのは、「間宮正義」と表札に書いてある家だった。
「すみませーん。間宮正義さんでしょうか?」
扉から、眼鏡をかけた初老の男性が出てきた。恐らく、彼が間宮正義なのだろうと、絢奈は思った。そして、間宮正義は不機嫌そうな顔で絢奈に話しかけてきた。
「私が間宮正義ですけど……ああ、もしかしてあの事件の関係者ですか? 出来ればそういうのは帰ってほしいんですけど……」
「せめて庭だけでも見せてもらいたいなと思って」
「そっちですか。それなら大歓迎です。何せ、私の家にある社は日本でも珍しい社ですからね」
「それって、3本柱の社ですか?」
「よく知っていますね。もしかして、そういう類の研究を行っているのかね?」
「まあ……そうなりますね。僕、こう見えてミステリ研究を行っているので」
「ほう。女の子なのに『僕』か。僕っ子なのかな?」
「そうですね」
庭に入った絢奈は、正義と話をすることにした。そして、正義と話をしているうちに、件の社が見えてきた。絢奈が思っていた通り、柱は3本柱だった。そして、絢奈は正義に対して正直に事件の事を聞くことにした。
「それで、正直に話します。正義さんは、間宮光雄さんをご存知ですか?」
「この際だから敢えて話しますけど、光雄は私の叔父に当たります。賢治とは従兄弟ですね。もちろん、今回の事件は胸が痛かったですよ。豊岡における間宮家は絶滅しましたが、私と妻の京子がいる限り、間宮という神の血筋は途絶えさせませんよ」
「そうですね。色々とありがとうございました」
「そうだ、せめて京子の顔を見てやってくれ。とても優しいから、君も気に入るはずだ。京子、お客様だ」
台所に、間宮京子が立っていた。京子は、温かいものを作っていた。なんというか、本当の母親と父親を知らない絢奈にとって、2人の存在は本当の両親のようにも見えた。
「あらぁ。こんな所によく来たねぇ。名前はなんて言うのかな?」
「僕の名前は神無月絢奈です」
「僕!? どう見ても女の子じゃないの」
「それはよく言われます。でも、僕はこれで良いと思っているんです」
「まぁ……。それより、これ食べて。作りたてのクリームシチューよ」
「ありがとうございます」
絢奈は、京子から野菜がごろごろ入ったクリームシチューを頂いた。それはここのところ病院食しか食べていなかった絢奈にとって、久々のご馳走だった。
「頂きます……あちっ」
「矢っ張り、そういうところは女の子なんですねぇ」
「僕、こう見えて結構猫舌なんですよ。だから、熱いものが中々食べられなくて……でも、このクリームシチューは美味しいですよ」
「ありがとねぇ。おばちゃん、まだまだ腕を振るうわよっ」
他にも、家庭菜園で採れた野菜を使ったサラダや、自家製のパンも用意してくれた。なんというか、昼からかなりのご馳走を食べたような気がした。
そして、正義は京子をこう称した。
「まあ、京子はいい人だ。いつでもウチに来るといい」
「ありがとうございます。でも、そういう訳にもいかないんです」
「どうしてよぉ」
「僕、芦屋に帰らないといけないんで……もう日も暮れかけていますし」
「確かに、バイクのナンバープレートは芦屋ナンバーだったけど、そんな遠い場所からよく来たな。まあ、絢奈さんだったらいつでも大歓迎だ」
それから、絢奈はバイクに跨って、間宮正義の家を後にした。
「正義さん、さようなら」
「またいつでもおいで」
手を振る2人を背に、絢奈は9号線を南下していった。そして、そのまま北近畿豊岡自動車道から阪神高速へと入っていった。
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