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絢奈が芦屋に着く頃には、空はすっかり暗くなっていた。なんとなく、六甲アイランドの工場の光が眩しいと思った。
アパートに戻った絢奈は、あまりの寒さにエアコンの暖房を急いで入れた。あの時から1ヶ月経っていたのに、よく大家から締め出しを食らわなかったなと思いながら、絢奈は部屋の整頓をしていた。そして、賞味期限切れの食材を燃えるゴミの袋に棄てた。
「事件が発覚してから、丸1ヶ月家を空けていたのか。まあ、基本的に腐るようなモノは置いてないし良いけど、サボテンが枯れているな。まあ、サボテンは仕方ないか。それよりも、メールをチェックしなければ」
絢奈は、パソコンの電源を入れた。そして、メールを起動させた。案の定、未読のメールは大量に溜まっていた。その大半は所謂スパムメールだったのだが、絢奈は仁美からあるメールが入っていることに気づいた。
【絢奈さん、一連の事件ではプロファイリングを手伝ってくれてありがとうございました。結局悲しい事件で、絢奈さんの心の傷をフラッシュバックさせることになってしまいましたが、今回の事件で得られたモノは確実に多いと思います。また、厄介な事件が入りましたらプロファイリングをお願いする可能性がありますが、その時はよろしくお願いしますね。それでは 兵庫県警捜査一課 西田仁美】
「そうか。仁美さんは僕の心の傷口を開いてしまった事を後悔していたんだな」
そう思いながら、絢奈はテキストエディタを起動させた。
「今回の事件の事、小説としてしたためておくか。まあ、それで溝淡社に送るだけの原稿が書けるかどうかは分からないし、うっかり新人賞を獲った所で書籍化されるかどうかは分からないけど。それにしても、僕の本棚は溝淡社の犬のマークの本が多すぎるな。まあ、大半は京極夏彦と西尾維新だけど」
なんとなくサブスクを起動したスマホからは、hitomiの『SAMURAI DRIVE』が流れている。絢奈にとって一番テンションが上がる曲で、なおかつエンジンがかかる曲でもある。
「『腑甲斐無いなんて自分を責めんな』……か。そうだよな、腑甲斐無いって思っちゃダメだな。さてと、眠くなってきたし、今日はこの辺で寝るか」
――こうして、絢奈の忙しい日々に漸くピリオドが打たれた。
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