Phase 01 消えた姉妹

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 兵庫県豊岡市というのは兵庫県の北部に位置しており、近畿地方でも屈指の豪雪地帯である。故に、12月となると山は雪化粧をして、木々も雪によって白く彩られている。このシーズンは近畿各地からスキー客が多数押し寄せてくるが、それは南西部にある日高地区の話である。基本的に豊岡市内の中心部というのはとても寂れていて、現在では人口減少等もあり衰退の一途を辿っている。豊岡駅から半径3km以内はよくある都会的な街並みであるが、そこを過ぎると長閑(のどか)な田園地帯が広がっており、農業が盛んである。故に高齢化社会での農家の後継者不足が深刻な問題となっている。  間宮家はそんな田園地帯ではなくファスト風土化したバイパスの近くの住宅街にある。光雄と幸子は円山川から見て北東にある三江(みえ)地区という場所に住んでいたのだが、夫婦の老後を心配した賢治からの提案によって今の場所へと引っ越してきた。光雄は「こんな遠い場所だと農業が出来なくなる」と嘆いていたのだが、数年前に腰を痛めてから殆ど農業が出来なくなってしまった。そして後継者もいないので田圃(たんぼ)を売り払うことにしたのだ。  光雄と幸子は基本的に若い頃に貯めていた貯蓄で暮らしているのだが、農家という自営業だった光雄は年金を貯蓄していないので、矢張り幸子の年金だけが頼りである。故に2人だけでの生活は厳しく、賢治と由香の稼ぎがあってやっとまともな生活を送ることが出来ていたのが現状である。しかし、豊岡にいる以上、縁故就職でも無い限りまともな仕事に就けるわけがない。賢治は土木業として職を転々としており、由香は駅前にあるスーパーでレジ打ちのパートをしている。当然、賢治も由香も安月給である。この夫婦にとって二世帯住宅という十字架はあまりにも重く、結局返済が終わったのは美和が東京オリンピックで8位に入賞して企業側から勝利給を貰ってからである。
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